第70話 なんで

翌日。


お昼休みに早苗と美奈の3人で話していると、薫君が「千歳ちゃ~ん」とドアのほうから呼び、手招きしている。


視線をドアのほうに向けると、昨日の女の子が立っていた。


「あ、あの… 昨日はありがとうございました。 これ、よかったら食べてください」


そう言いながら、薄ピンク色の可愛らしいラッピングをした、小さな袋を手渡してくる。


「…ありがと?」と言いながらそれを受け取ると、その子は赤い顔をして走り去ってしまった。


『なんじゃありゃ?』


自分の席に戻り、ピンク色の袋を机に置くと、美奈は呆れたように「千歳の男子力って凄まじいよね…」と呟くように言ってくる。


「なんなんだろうね」と言いながら袋を開けると、そこには手作りクッキーと小さな紙が。


【もしよかったら、ラインください。 菅野千夏】


紙を見た瞬間、自分の女子力のなさにがっかりと肩を落としていた。



翌朝、おじいちゃんの家に行く際、新しい下着を持っていき、制服に着替える際に着けてみた。


すると、胸にハッキリとした谷間ができ、『最近、トレーニング日が減ってるし、太ったのかな…』と思っていた。



ナベシャツとスパッツをカバンの中に隠し、家を出たんだけど、奏介に会うこともなく学校へ。


教室に入るなり、早苗と美奈は私のことをマジマジと見て「千歳って何カップ?」と聞いてきた。


「言う訳ないじゃん」


そう言いながら自分の席に着くと、早苗はブラシとゴムを持って私の横に立ち、サイドの髪を編み込んでくれた。


美奈と話しながら出来上がりを待っていると、早苗は「できた!」と言いながら鏡を見せられたんだけど、サイドの髪がカチューシャのように編み込まれている。


「早苗ってホント器用だよねぇ…」


感心しながら早苗にお礼を言うと、美奈が顔を近づけてくる。


自然と早苗と二人で顔を近づけると、美奈が囁くように言ってきた。


「めっちゃ可愛いじゃん。 Yシャツのボタン、一個多く開けたら、もっと女子力上がるんじゃない?」


「んな訳ないじゃん」と言いながら、さりげなくボタンを一つ開けると、早苗は「ガチじゃん!!」と言いながら笑いかけてきた。



4時間目を終え、教室に帰ろうと、早苗と美奈の3人で廊下を歩いていると、奏介とすれ違ったんだけど、奏介は何も言わずに通り過ぎるだけ。


『そういやこの前喧嘩したきりだったっけ?』


そう思いながらも、早苗と美奈の3人で話しながら歩いていた。



放課後、ジャージに着替えてからボクシング場へ行き、マネージャーの仕事を熟していると、谷垣さんがみんなを集合させ、6月にある大会について切り出してきた。


話を聞き終え、後片付けをしていると、薫君が「奏介君、また優勝できるかな?」と切り出してきた。


「どうだろうね?」と言いながら周囲を見ると、京香ちゃんの姿がない。


『いつの間に帰ったんだろう?』と思いながら薫君と話し、更衣室で着替えた後に玄関へ。


上履きを履き替えていると、背後から名前を呼ぶ声が聞こえ、振り返ると、奏介と同じD組で男子陸上部の徹君が歩み寄ってきた。


「今度、陸上部のみんなでカラオケ行くんだけど、千歳も行かない?」


「なんで?」


「なんでって…  早苗と美奈も行くって言ってたし、千歳は去年の記録保持者じゃん」


「曲、知らないから行かない」


そう言った後、すぐに歩き始めたんだけど、徹君はしつこいくらいに「なんで? いいじゃん。 行こうよ」と声をかけ続け、かなりうんざりしていた。

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