第66話 暴露
自宅に戻った後、吉野さんと桜ちゃん、そして父さんの4人で話していたんだけど、しばらくするとヨシ兄がジムのみんなを連れて帰宅していた。
みんなで話していたんだけど、田中に逃げられてしまったせいか、喜んでいいものか、悔しさを表していいのかわからず。
話を聞いていればいるほど、居心地が悪くなってしまい、自室に逃げ出していた。
正直、ベルトを取ったっていう実感がない。
と言うのも、普段のトレーニングの方が打たれまくり、疲れ果ててしまうのに、この時はそこまで疲れていない。
それに、一番やりたかった相手とできず、逃げられてしまったことで、胸の中にモヤモヤしたものがくっついて離れようとしなかった。
『縄跳びしに行くか』
そう思い立ち、トレーニング用のジャージに着替えると、ドアがノックされ、奏介が中に入ってくる。
「あれ? どっか行くのか?」
「うん。 不完全燃焼だったし、縄跳びしに行く」
「そりゃあ、元世界チャンピオンと毎日スパーしてるやつが、同年代のキックボクサー相手にしたって張り合いねぇだろ? カズさんだって元プロだし」
「そっか… 私、恵まれてるんだね。 今気が付いた」
奏介はクスッと笑った後、優しく「ベルトおめでとう」と言って来る。
笑いながら「ありがと」と言うと、奏介は私の頭を撫で、何かを言いかけると、1階から父さんの「ちー、ケーキ食うぞ~」と呼ぶ声が聞こえてきた。
「縄跳びしたいっつーの!」と言いながら、部屋を後にしていた。
翌週から、部活の時間はマネージャーに徹しようと思ったんだけど、ついいつもの癖で大きな荷物を持ち登校。
朝一に、坂本さんが「週末の試合で、中田がキックボクシングのベルトを取った! 拍手!!』と言い、みんなから拍手をされてしまい、照れ隠しばかりをし続けていた。
昼休みには、相変わらずスカートの下にジャージを履いて、縄跳びをし続ける。
すると、奏介が現れ、少し呆れた様子で縄跳びをする姿を眺めていた。
言葉を交わさないまま縄跳びを終え、更衣室に行こうとすると、奏介は私を更衣室横の物陰に引きずり込み、顔を近づけてきた。
突然のことにびっくりして、奏介を押し返したんだけど、奏介は愛おしそうな目で私を見て、ゆっくりと抱き寄せながら、再度顔を近づけてくる。
「ちょ… ダメだって…」
「なんで?」
「ここ学校だよ?」
「うちならいい?」
抱きしめたまま、愛おしそうな目で見つめられ、息が詰まり、言葉が出ないでいると、再度、奏介は顔を近づけようとしたんだけど、急に更衣室のドアが開き、思いっきり早苗と目が合ってしまった。
早苗は一瞬にして顔を真っ赤にし「ご、ごめん!!」と言いながら更衣室の中へ。
奏介は何も気にすることなく、「帰り、待ってるな」と言うと、平然と教室の方へ行ってしまった。
心臓が尋常じゃないくらいに暴れまくったまま、更衣室の中に入るなり、早苗はいきなり私に詰め寄り「他校の子と付き合ってるんじゃなかったの!?」と、声を荒げる。
「いや、あの… 実はさ… 映画、奏介と行ったんだよね…」
「え? 菊沢君と?」
「うん… なんか言いにくかったっていうか… 切り出せなかったといいましょうか… ホントごめん」
早苗は『以外』と言いたげな表情のまま固まってしまったんだけど、いきなり「今度詳しく聞かせて!!」と鼻息を荒くしていた。
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