第58話 顔合わせ

冬休み中はずっと奏介が居候をし、私の部屋で生活をしていたんだけど、奏介が私の部屋を使うのは寝るときだけ。


奏介は1日の大半をジムで過ごしているし、父さんのマネージャーのように動き回っていたから、家に入るのは食事と寝るときだけ。


奏介が「迷惑かけてるから」と、母さんにお金の入った封筒を渡していたけど、母さんがこれを拒んだせいで、奏介は大量のお米を買ってきてしまう始末。


母さんは「これなら気兼ねなく受け取れる」と言い、奏介を受け入れていた。


カズ兄は仕事で夕食の時間が遅いし、ヨシ兄も遊びまくっているせいで、4人で食事を取ることが多かったんだけど、父さんは奏介と1日中ボクシングの話を、楽しそうにするばかり。


『息子が増えた?』とも思ったんだけど、言葉にすることができず、黙々と食べ続けていた。



カズ兄の部屋から私の部屋に移動したせいか、朝のトレーニングも二人で走り、雨の日にはジムで縄跳び。


今までずっと一人だったし、父さんが起きてこない時も2人で走っていたから、最初は違和感があったんだけど、3日もすると慣れてしまい、一人の時と変わりなく走り続けていた。



寝るときは、ベッドの横にテーブルを立てかけ、奏介はその向こうに布団を敷いて寝ていた。


毎晩、眠っているときに、おでこや目元に柔らかい感触がしたんだけど、目を開けずに眠ったふりをし続けていた。



年末年始はトレーニングがないため、ずっと家に居たんだけど、年明け早々、ジムのみんなが新年の挨拶に来たから、奏介はリビングでみんなと話すばかり。


来客がない日は、カズ兄の部屋でゲームをしていたようで、時々、隣の部屋から雄たけびが聞こえていた。



そんなある日の事、一人部屋に籠ってストレッチをしていると、インターホンが鳴り響いていた。


しばらくすると、赤ら顔をした桜ちゃんが部屋に来て「光君、会いたがってるよ」と切り出してきた。


仕方なく、部屋を出ると、廊下でカズ兄と奏介の二人に会い、4人でリビングに行くと、光君はすっかりやせ細り、寂しかった髪は丸坊主に。


かなり驚き、「ご無沙汰してます?」と聞くと、光君は笑いながら「んな改まってんなよ」と言いながら、私の頭をグシャグシャっと撫でてきた。


口ごもりながら「この前と全然違うし…」と言うと、光君は会社を辞め、トレーナーとして近所のジムに勤め始めたようで、「ストレスから解放されたら元に戻ったよ。 皮膚は伸び切ってるけどな」と、笑い飛ばしていた。


すると、奏介が横から会話に入り「初めまして」と言った後に自己紹介をしていたんだけど、目がちょっと怖い。


光君は気にすることなく挨拶をしていたんだけど、奏介は『試合前か!』と言いたくなるほどの鋭い目で、光君を睨むばかり。


『怒ってる? 嫉妬?』と思いながらも、桜ちゃんに促され、奏介の隣に座ると、光君が「キックの試合、出るんだって?」と切り出してきた。


「はい… まぁ…」


「左ミドルは健在?」


「いやぁ… どうでしょうね…」


光君からの質問を、のらりくらりと躱していたんだけど、父さんが「そんなに気になるなら見に来いよ。 5日からキックの練習始まるぞ」と言い、練習を見に来ることが決まっていた。



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