第56話 部屋
奏介がうちに『居候をする』と決めたその日の夜。
奏介はカズ兄の部屋で寝ることになったんだけど、翌朝、トレーニングの時間になっても起きてこない。
『まだ真っ暗だし、寒いしねぇ…』
そんなことを思いながら、リビングでストレッチをしていると、父さんが起きてくるなり「奏介は?」と聞いてきた。
まだ起きてきていないことを告げると、父さんはカズ兄の部屋へ。
ストレッチをしながら待っていると、父さんは一人でリビングに来るなり、呆れたように「行くぞ」と切り出した。
「え? 奏介は?」
「二日酔い。 カズが面白がって飲ませたらしい。 ったくあのバカ、高校生に飲ませて何が面白れぇんだよ…」
父さんはブツブツ言いながら外に出てしまう。
『アホだなぁ…』と思いながらフードを被り、自転車を漕ぐ父さんの前を走り続けていた。
暗闇の中、街灯に照らされ、小さな光の粒を放ちながら流れる川を見ながら走る。
朝日が昇る前に土手から離れ、自宅の庭に一直線。
呼吸を整えながらしゃがみ込むと、父さんが「40分21秒。 いいペースだ」と、満足そうに笑かけたんだけど、その背後に真っ青な顔をした奏介が「本当にすいません」と言いながら、歩み寄ってきた。
「大丈夫か?」と心配そうに声をかける父さんに、奏介は「頭痛いです」とだけ。
父さんは呆れたように「カズの部屋はダメだな。 ヨシは… もっとダメか」とため息をこぼした。
「なんでヨシ兄はダメなの?」
「汚いから」
「掃除させればいいじゃん」
「あいつがやると思うか?」と言われ、何も答えられずにいると、奏介は「やっぱ俺、帰りますよ」と、諦めたように答えていた。
けど、父さんは「ダメだ。 あれで引き下がるとは思えないし、万が一刺されでもしたら、選手生命どころが、人生が終わる」と言い切り、奏介はため息をついていた。
「あたしがヨシ兄の部屋を掃除するのは?」と切り出したんだけど、父さんは「お前はヨシの部屋に入るな」と、語尾を強めて言うばかり。
「なんで?」と聞くと、奏介が「ヨシ君の部屋、雑誌がすごいんだよ。 成人向けのやつもあるし…」と言いにくそうに答えていた。
変に納得していると、父さんが「ちーの部屋しかないか」と切り出し、思わず「はぁ!?」と声を上げてしまった。
「お前の部屋が一番安全で綺麗だろ? 奏介、ちーになんかしたら、わかってるだろうな?」
父さんの言葉に、奏介は目を輝かせ「スパーっすか!?」と聞き返す。
父さんが奏介を睨みながら「叩きのめすぞ」と言うと、奏介は嬉しそうに「やっべ! マジっすか!! 毎日なんかします!!」と言い切る始末。
父さんは慌てて「するんじゃねぇつってんの!」と言い、自分の部屋に逃げ出していた。
『うちら兄妹とは正反対の反応だから、やりにくいだろうなぁ…』
完全に呆れ返りながら筋トレをしていると、奏介は自転車のキャリアに座り、筋トレする私を眺めていた。
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