第35話 きっかけ

週末、陸上部の秋季大会があり、3000メートルに参加し、9分10秒という自己最高記録を叩き出し、堂々の1位に。


400mと100mを走る部長と先輩も、最後の大会で自己ベストを叩き出し、1位に入賞し、みんなと喜びを分かち合っていた。



大会を終え、おじいちゃんに報告した後、自宅に戻る前にジムへ行くと、ボクシング部のみんなが必死に汗を流し、薫君は縄跳びに悪戦苦闘していた。


すると、私に気が付いたヨシ兄に「大会どうだった?」と聞かれ、結果を報告すると、父さんは大喜びをし「夜は飯食いに行くぞ!!」と言っていたんだけど、ヨシ兄が減量中のため、お祝いは延期に。


ヨシ兄はこの事がきっかけになったようで、日々のトレーニングにより一層磨きをかけ、奏介とスパーリングばかりをしていた。



翌日。


バイトは休みだったんだけど、大会の結果を報告をしに行くと、みんなはお祝いの言葉を並べ、オーナーはホールケーキをプレゼントしてくれた。


『ヨシ兄に見られたら殺されるよなぁ…』


そう思っても、返すこともできないし、持ち帰るのも命がけ。


どうしようか考えながら歩いていると、桜ちゃんがジムから現れ、帰宅しようとしていた。


慌てて桜ちゃんを呼び止め、ケーキを見せながら事情を話すと、桜ちゃんは「ああ。 ヨシくん、さっきも『タピりてぇ』って叫んでたもんね。 見せたら絶対に殺されるよ?」と、不安を煽るようなことを言い出す始末。


「マジかぁ… どうしよう…」と言葉が漏れると、桜ちゃんはクスッと笑った後「私、もう帰るからうちにおいでよ。 一緒に食べよ」と切り出してくれて、桜ちゃんの家に向かっていた。



桜ちゃんの家に着き、二人でケーキを食べながら話していたんだけど、話題に出たのが部員たちのこと。


桜ちゃんは練習風景を見ながら、一人一人の弱点や改善点を見つけていたようで、「それを克服出来たらもっと良くなるよ」と言い切っていた。


「それはそうと、奏介君だっけ? 彼、全盛期の光君に似てない?」


「やっぱり!?」


思わず声を上げてしまうと、桜ちゃんはニヤッといやらしい笑みを浮かべ「へぇ~。 光君に似てるんだ」と、何かを含ませる言い方をし始めた。


「…なにその言い方?」


「超イケメンだったもんね。 光君は!」


「んなことないって!」


「そう? この前、かなりショック受けてたでしょ? まぁ、私もショックだったけどさ」


「あれは誰でもショック受けるでしょ…」


「まぁね。 奏介君と千歳、お似合いだと思うけどなぁ。 きっかけ作ってあげるから、押し倒しちゃえば?」


「はぃい? 何を仰ってるんですか?」


思わず声を裏返しながら言うと、桜ちゃんはクスクス笑い「嘘。 冗談」と言い切っていた。


『このお姉さま怖い…』


そう思いながら紅茶を飲むと、桜ちゃんは「千歳はホント面白いなぁ」と言いながら、満足そうにケーキを食べていた。

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