第9話決意
「はぁ~…。御婆様の事伝えていなくて悪かったね…」
「いえ…。なんだかすごい人でしたね…」
「ああ…。もはや人間離れした力を持っている人だからな。浮世離れしているというか…おまけに凄く気まぐれなんだ…」
「そうなんですか…。僕は挨拶とかしなくて良かったんでしょうか?」
「問題ないよ。そもそも御婆様の発する気は普通の人には立っていられないほどのものなんだ」
「そんなに…ですか…」
確かにあの人がこの部屋に入ってきただけで空気が変わったし
声や雰囲気は何もかも経験した事ない感覚だった。
僕のような普通の人間はひとたまりもないという事か…。
白銀の一族の頭領で、創始者でもある。「望月はつ」という人だった。
神々や
人形劇で見た三つの贈り物をされて人成らざる者になった人。
彼女には沢山の子供達がいて、子供を産むごとに若返る力があるらしい。
その為いつまで経っても年を取らず、若い時のそのままの姿で今もあるそうだ。
因みに
いったい…望月家は何人いるのだろうか?
尋ねてみたら、はつさんの直系の子供達だけで十数人以上いるそうだ。
住んでいるから数えたこともないらしい…。
今となっては正確な人数はもう分からないそうだった。
「望月家は代々、
「
「ああ。だからこの公安零課も望月家が代々受け継いできた仕事の一つだ」
「そうだったんですね」
「こう言う込み入った話は、おいおいしようと思ってたんだけどな…。御婆様のせいで台無しだよ」
「でも…僕は色々知れて良かったです。やっぱり知らないのは…怖いですから」
「そうか…。不安な思いをさせてしまってすまない…」
「あ…いえ!
「ふふふそうか…。ありがとう。土方君」
ふんわりと
そこだけ光が増してキラキラしているように見えた。
僕の目は…おかしくなってしまったんだろうか?
「それより…鼻血は止まったかい?」
「はい。もう大丈夫です」
「良かった~。土方君に何かあったら困るからね」
「それは…どういう…」
「もちろん!美味しいおやつの為さ♡」
「なるほど!…あ、何か食べますか?お腹空いてませんか?」
「ありがとう。実はもうぺっこぺこなんだ~」
僕は慌てて立ち上がり台所へ向かった。
一瞬ドキリとしてしまった。年甲斐もなく…。
僕はただのアシスタントだ。彼女の身の回りのお世話をするだけ…。
それ以上でもそれ以下でもない。
でも…。それだけでも…
何でもいい。彼女の傍にいられるなら…。
お菓子要員としてでもいい。
僕はぎゅっと手を握り締めた。
こんなに強い想いを抱いたのは初めてだった。
「よし…気を取り直して美味しいおやつを作ろう!」
僕はエプロンを付けて腕まくりをして準備に取り掛かった。
短時間で作れそうな…おかしはっと…。
スマホで調べてみると沢山出てくるから本当に便利だよな~…。
僕は調べた中で一番調理時間が短いクッキーを作り事にした。
でも…これだけでは足りないだろうから、レアチーズケーキも一緒に作ろう。
それなら冷やすだけだしすぐにできそうだった。
その間に
引きたてのコーヒー豆のいい香りが台所中に広がる。
何とも言えない香ばしい香り。うん。いい感じだ。
僕も…お腹空いてきたな…。
多めに作って僕も一緒に食べよう。
この時間帯にお腹がすくなんて珍しいな…。
いつもお昼を食べたらもう何もいらないのに…。
緊張していて安心したからかな?
でも…そんなに気にするほどでないか…。
僕は、たまたまだろうと結論を出してお菓子作りを続けた。
「
「わーい!クッキー♡」
「おれも!おれも!」
「
「ほめてやるぞ!下僕!」
「ハハハ…。ありがとう」
なんだかんだで下僕って呼び方が定着してるけど憎めないだよな~。
時々すごい勢いで蹴ってくるけど…。
よく考えてみるとあれも手加減されてるのだろうな。
でないと本気を出していたら僕の足なんて簡単に粉々になるだろう。
おおかたクッキーを平らげたところで、
「さっきの話の続きだけど…」
「ああ。襲ってきた使い魔の話ですね」
「うん。
「こくえん…ですか?」
「ああ。白銀の一族とは昔から折り合いの悪い一族でね…。何かにつけて縄張りを荒らしてくるやつらだ」
「なんだか…ヤクザみたいですね‥‥」
「ふふふ。そうだね。まぁ…うちには御婆様がいるから下手に手出しはしないだろうけどね」
「そうですか…」
「ああ。御婆様の怒りは神々の怒り。そして
「すごい…人なんですね。
「すごいさ!彼女を知らない人はいないし、人間界では政財界にも顔が利くからね」
そんなすごいコネクションがあるのか!
僕はびっくりしてしまい何も言えなくなってしまった。
どうりで…。警察の内部でも融通がきくはずだ…。
望月家の威光は日本の隅々にまで行き渡りその存在を知らない人はいないらしい。
一般の人達をのぞいては…。
「そんな人の孫娘となると…私も色々と言われて大変なんだ~」
「たしかに…。沢山注目を浴びそうですね…」
「そう!それなんだよね~。色々としがらみが多くて面倒でもあるのだよ…はあ」
「あの…。僕は何もできませんが…お話しくらいなら聞きますから…」
「土方君…」
「だから…その…僕には何でも話してください!」
僕は思い切って彼女にそう告げた。
心臓はバクバクして、手汗も凄い!
こんなに緊張したのは人生で初めてかもしれ無かった。
「土方君…」
「わっ…!」
僕は受けとめるのに必死で、何も考えられなくなってしまった。
「君はなんていい人なんだ!ありがとう!とっても嬉しいよ」
「あ…あの…」
「土方君…君がここにきてくれて…本当に良かったよ」
「僕も…ここに来れて嬉しいです…
僕はぎゅっと
するとほのかに懐かしい香りがした。
夢であった時の…芳しい香り…。
僕は彼女を抱きしめながらその香りを味わうのだった。
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