桜色ノスタルジー

フォレスト

第1話プロローグ

眩い光の中僕はひとり泣きながら歩いていた。


「おかあさーん…どこー?」


何度呼んでも母親からの返事はない。

歩いても歩いても前に進んでいる気がしない。

自分はいったいどこへ向かっているのだろう?

不安と恐怖で押しつぶされそうになりながら必死に歩いていく。

止まってしまうと帰れなくなってしまうと思っていたからだ。


「うう…おかあさん…」


涙で足元が滲んで見える。

ぽとりぽとりと僕の靴の上に水滴が落ちていく。

止まってはダメだ前に進まないと…。

僕は一歩…また一歩と歩みを進めていく。

すると遠くの方で光の中にうっすら、ぼんやりとピンク色が見えたきた。


「ぐす…あれは…なんだろう?」


もしかしたら出口かもしれない。

僕はそのピンク色の場所をめがけて走り出す。

すると辺り一面の桜並木が僕の目の前に飛び込んできた。

見渡す限り桜の木で覆いつくされた場所。

ヒラヒラと沢山の花吹雪がまっていて、まるで雪が降っているみたいだった。


その桜色の中にひときは銀色に輝く女性が一人立っていた。


「おや?人の子だね…」


逆光で顔が見えないが優しい表情をしているような気がする。

声が穏やかで心地いい。僕は奇妙な安堵を覚えた。


「あの…ぼく…ううう…ぐす」


「ふふ…。迷い込んでしまったのだな…可哀想に」


そう言うとその女性はしゃがんで俺の涙を拭い優しく抱き上げてくれた。


いい匂いがする…。

甘くて芳しい香り。ほっとするような香りだった。


「ここは人が来てはいけないんだ…出口まで連れて行ってあげよう」


「ぼく…おかあさんの…ところにいける?」


「ああ。大丈夫だ…さぁもう寝なさい」


「うん…」


彼女が優しく頭を撫でてくれた。

あったかい…。ぼくはぎゅっと彼女の服を握り締めた。

良かったぁ…ぼく帰れるんだ…お家に。

家に帰れる安堵感と人に触れていることで感じる温かさで

僕は知らない間に彼女の腕の中で眠っていた。


その後の事は覚えていない。

気が付いたら家の前で倒れている所を母親に発見された。


それは僕が5歳の時。

忘れられない幼い日の記憶であり僕の宝物だった。

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