第24話 始まりの聖女物語
「はい、次の人どうぞー!」
と銀髪アメジストの瞳を持つそこそこ可愛い容姿の私…聖女のサンデラと申します。
私には特別な力が宿っています。
それこそ神が与えた縁結びの力と言われており、私には他人の指に赤い糸が視えるのです。
赤い糸で結ばれた男女は幸せな結婚を約束されています。
しかしたまに鋼の赤い糸だったり、ドス黒い斑点の視える糸だったり、ピンクだったり、紫色だったりする者もいます。全部がこいつヤバイなと思わせる色です。
ですので私はその糸の色を視て助言やアドバイスをして差し上げるのです。つまり他人の恋愛ごとの手助けです。
「はぁ…くそつまらないわ…」
「聖女様がくそとか言ってはなりませんよ」
と聖女殿と呼ばれる神殿でお茶の相手をしているそこそこカッコいい黒髪の側近ルシフが微笑む。
神殿に使える者はけして邪な感情を抱いてはならないと言う鉄則があるが、ほとんどの奴らは規律なんか知るかとばかりに貴族や下町の者に想いをはせ、こっそりと愛し合い赤い糸で結ばれている者もいる。遊び人の紫色を持つ神官長もいて普段から厳しく
「規律を破る者には罰をあたえる!!後で私の部屋に来なさい!!」
とか言いながらその子を食べているのだ。
あのジジイ。クズだわ。と通りかかり笑顔で接する神官長をみるとイラっとした。
ルシフもまた執着の鋼の糸を持っていた。しかも私に向いている!!だからルシフが私を好きなことは見れば判るし本人もバレた上で私の側仕えとしているのだろう。
私の体調から何までいつも面倒を見る。
けして好きだとは告白できないが想いだけは判るし、私も最近グラグラきている。
ある日ルシフが聖女の仕事をサボって狸寝入りしている私のベッドに来てサイドのテーブルに水を置こうとして派手につまづいてバシャンと私に水がかかった。
「きゃっ!冷たい!」
「わっ!聖女様ごめんなさいっ!直ぐに着替え……を」
そこで彼は私を凝視し鋼の糸はとんでもなく蠢いていたから自分の様子を見たら寝巻きが濡れて透けていた。下着をつけていない聖女の規律か何か知らないけどもはや全裸と同じか!?
と慌てて隠したけど、ルシフは何かがキレたようにこちらにきて私を押し倒してしまった。
「……聖女さま!ごめんなさい!僕…!我慢していましたが…気持ちがとても抑えきれません!あ、貴方のそんな姿…!誰にも見られたくない!」
黒い瞳とアメジストの瞳は見つめ合った。
ええと、口説かれてるわ!ルシフに!!
「だ、ダメよルシフ!あのっ…私は選ばれし聖女で…」
でも私もルシフが好きで彼の指についに絡まるのを見た。ルシフは尚も
「貴方はいつもご自分の力を無くしたいと仰っていましたね…。最近…聖女様にお見合い話がきているのです」
「な、何ですって?」
「どこぞの貴族の公爵とか。貴方は公爵家に嫁に行かされその力を受け継ぐ子を生まされる道具となるのでしょう…」
「そ、そんな!!」
公爵家の嫁だなんて!!
「僕の手の届かない存在になってしまうなら一度でいいので貴方を…僕のものに!!」
「ルシフ!!」
とこうして私達はついに結ばれてしまった。
それから私もルシフも人がいない時間などを見計らい規律を破りキスをしたりイチャイチャした。というか聖女が穢れているとは思ってもいないだろう。
しかし公爵家に嫁に行く話が出た頃から私の体調はすぐれなかった。
毎日何度も吐き死にそうだった。ルシフは薬を作り飲ませてくれたけど。そんな中でも嫁入りの作業は進む。
「ルシフと離れたくないわ!私…たぶん…貴方の子供を…身篭っているんじゃないかしら?」
と言うとルシフは驚き、
「そんな…まさか…。ああ!神よ!!嬉しいです!!」
と抱き合って喜んだが、その幸せはあっさり崩された。
神官長によって私とルシフの関係がバレて医者にルシフの子が宿っていると告げられた。
神官長はルシフを独房みたいな所に入れて会えなくなる。
そして程なく私は公爵に嫁入りとなった。他人の子を身篭った私を公爵はそれでも嫁にして私と距離を置いていた。
公爵にもまた私に赤い鋼の糸が視えた。
私を地下に監禁し鎖で繋いだのだ。
手を出さない代わりに何度かキスだけされた。
私は泣いて嫌がった。ルシフに会いたいと願いながら死ぬ思いで女児を産み落とした。
しばらくは女児と暗い地下室で過ごしたけど…公爵が子供を取り上げてしまった。私はまだ鎖で繋がれたままだ。体力も弱りこのまま死ぬかもしれない。
「ルシフに…会いたい…。こんな力が無ければいいのに…」
結婚の時嵌められた白い石のついた指輪を見つめて呪いみたいにこんな力消えてなくなれ!!と願った。
すると不思議なことに糸が視えなくなりはじめたのだ!!やった!!開放される!!
私は喜んだけど公爵は無関心だった。
子供にかまけて地下にもあまり来なくなった。私が病気だからか。
ここでひっそり死ぬのをただ待つのね。
力を失ったから神殿にも戻されず…惨めに。
しかしある夜のこと…地下の扉が空いて公爵かと思われたが、それは私の愛しいルシフだった!!
「ルシフ!!来てくれたのね!?」
「サンデラ…様!?…何と言うことだ!幽閉されているのは本当でしたか!!こんなにやつれて!」
「そのうちにもうすぐ死んでしまうわ。私に残された時間はない」
そしてこの鎖は消して切れないのだと説明した。公爵は私を逃すつもりもなく、鍵を捨てたのだ。
自分は愛人と私の聖女の血を引く子を大切にしているらしい。
「ルシフ…お願いがあるの。最期の瞬間は貴方と共にいたいの。この忌々しい手首を…斬り落として私をここから連れ出して!!」
と願った。
「ダメです!そんなことをしたら死んでしまいます!今だって死にそうなのに!」
「死んでも構わないわ!!お願いを聞いて!ここで死ぬのが嫌なのよ!!」
そう懇願するとルシフは辛そうに顔を歪め何度もキスをしてくれた。それから決意したように斧を持ってきた。腕を縛り…泣きながら斬り落として私が気絶すると抱えて逃げ出した。
*
気付いたら私はとても綺麗な海の近くの小屋にいた。
「目が覚めたのですね!サンデラ様!」
「私も悪運が強いのかしら?生きてたわ…ふふふ」
でも体力もほとんど限界だ。無くなった手首ももはや痛みすら感じないほど麻痺してもうすぐ死ぬのだと悟った。
「ルシフ…貴方の子供は可愛がられてる。公爵の娘として代々生きていくんでしょうね…。せめてあの力が広まりませんように…」
「サンデラ…様…」
「ルシフ…とても眠いわ…」
するとルシフはゴフッと血を吐いた。
「!?ルシフ!?」
床に血が落ち驚いた。
「ごめんなさい…サンデラ様…僕は先程猛毒を飲んだのです。貴方と共に死にたくて」
「ルシフ…貴方って本当にバカね」
私達は最後に抱き合いキスをすると二人ともパタリとこと切れた。
*
地下の残されたサンデラの手首を見て公爵はそれを大切に箱にしまった。そして娘が結婚する時に
「お母様の手首だよ」
と言って見せて指輪を娘に与えた。
娘が指輪を嵌めると視えていた糸が視えなくなり…娘は安堵した。
それから聖女としての仕事はなんかうやむやとなり、代々娘達にひそりとその力の継承が行われた。
サンデラの手首は腐らなかった。生きているようにずっと残り、娘達は儀式の時
「怖っ!!」
とか言いつつも婚約期間だけ指輪を嵌め続けた。
*
天国で聖女サンデラは代々の儀式の時をしばらくひたすらルシフとテレビで見ていて
『私の手首怖がられてる!!失礼ね子孫達!』
すると横にいたルシフが
『まぁ普通に怖いと思いますよ。あんなとこに手首があったら』
『まぁ確かに…』
するとルシフは告げた。
『明日僕たちは生まれ変わりの順番となりました。一旦離れ離れでしょうね』
『そうね…。ルシフ…寂しいわ!!』
『生まれ変わってもきっと巡り合いますよ!どんな形でもきっとまた会えます!僕が逃がしません!必ず見つけてみます!』
と涙して生まれ変わりの日まで抱き合って過ごした。
*
その後……
「ほら、アマーリア…ご挨拶しなさい。今日からお前の弟になるラファエルだよ?」
とお父様が長い前髪の黒髪の男を連れてきた。とても沈んでいる。
「ラファエルは育て親を亡くしたばかりでね。魔女の元で薬を作っていた。お母様の薬も彼が作っていたんだ」
「まぁ!お母様が少し元気になられたのって貴方のおかげなのね!凄いわ!!」
「………僕は…弟子として当然のことをしたまでです」
私はそれでも笑顔でラファエルを褒めて一緒にいた。最近ザワザワとラファエルの糸が硬くなってきたけど??
*
僕は絆されたのかな?
何故だか判らないけど姉様が気になる。他に可愛らしい令嬢も沢山いるというのに、まるで姉様しか目に入らない。優しくされただけではない。何かもっと別の…なくてはならない存在だ。
姉様には王子という婚約者がいるのに…。
ごめんなさい、姉様…。貴方を愛してやまない!!できるなら僕が一生幸せにしたい……。
「きっといつか僕のものに!」
そう願いながら月に祈りを捧げた。
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