第16話 第二王子の脅し
クルクルと揺れる金髪が視界にチラチラ入りつつ私はラファエルの方を見た。
すると彼の糸が物凄いことになっている!!
ブワリとラファエルを取り巻く鋼の糸はメラメラと炎に囲まれ中央に嫉妬の巨大な蛇の鋼が出現しているではないの!!
すっごい迫力鋼アート!!
最初本当に燃えてるように視えた。けど周りが騒いでないから本物の火ではないと気付いた。蛇がもしライオンとかだったら猛獣サーカスじゃない!!
めっちゃギラリと目を光らせているラファエル。ううう、ごめんね!!私だって断れるなら断りたいけど王子だしいいい!!
そこで第二王子のシメオン王子が
「ねぇ、アマーリア嬢…余所見かい?いただけないよ。私の顔を見てくれないかな?」
とシメオン王子は端正な顔で微笑む。
彼の指の糸は私に近付こうとしている。でもその色は赤黒い。時折斑らに黒いものが溢れる。この糸は略奪愛を意味する。
そう、つまり人の恋人や妻を寝とったりするのが生き甲斐みたいな腹黒い奴に多い糸なのである。
純粋でないその糸は私を狙っている。たぶん私とラファエルの関係を判った上での略奪愛か。言っとくけど顔だけのボケ王子と何年も幼馴染してたんでそれ系統の顔は私に効力はない!あの顔に慣れ過ぎた。今や全くときめかない。
私に効くのはラファエルの色っぽい微笑みだけじゃああ!!
「ふふ、何を考えてるのかな?」
とシメオン王子が言う。とりあえず殴りたい。
殴ったら即アウトだけど。
「私は君と義弟くんのことを知っているよ。婚約してるみたいだね?」
そりゃ知ってるだろうよ。大体噂になってるし。
「庶民の出だろう?彼は。領民達はまだしも貴族の中には反対派も多いだろう?私なら皆大賛成だろうね」
さりげなく自分をアピールしてきやがった!
「申し訳ありませんわ。シメオン王子。私などとても釣り合いませんのでどうぞ他のお綺麗なご令嬢をお相手にしてくださいませ!」
と言うとシメオン王子は笑い私の耳元で悪魔みたいに囁いた。
「私は君がいいんだよ…。ねぇ?義弟くんが庶民ということは知られているだろうけど…犯罪者の血も流れているよね?彼の本当の父親は先日公爵を毒殺しようとした人だよね?もう兄様が監獄島へ送ったけども…君は彼と結婚して犯罪者の血が流れる子を産む気なのかな?ただでさえ、見聞も悪いのにもっと悪くなるだろうね」
「そ、それは…」
「クレンペラー元伯爵が彼の親だと言うことはあまり知らされていない。この事を暴露されたくなかったら今夜…公爵邸の裏に馬車を潜ませておくからおいでよ。月が真上に昇る頃、待っているから」
とボソボソとシメオン王子は綺麗な顔して私を誘ったのだ。断ればバラされる。ラファエルにも迷惑がかかる。でも!嫌!
曲が終わり手にキスをされた。ラファエルはそれを見て血管が浮き出て糸もすごいメラメラになっていた。蛇は鋼の大蛇と変化し、今にもシメオン王子を飲み込みそうな形をしている。
「そうだ、このネックレスは預かろう、待ってるよ」
「え?…」
私は首元のネックレスがいつの間にかシメオン王子の手にあるのに気付いた。
「か、返してください!」
「来たら返すよ…もちろん誰にも言わないで抜け出してきてね?ふふ…そうしないとこれは何処かに捨ててしまおうかな」
とウインクされシメオン王子は言ってアルフォンス王子にとっ捕まえられて次のダンスの相手をシメオン王子に無理矢理押し付けていた。
ど、どうしよう!!大切なネックレスを!!
ラファエルがダッシュでこっちにやってきてさっきキスされた手の甲の箇所を拭き、
「ダメだ!やはり石鹸で綺麗に洗いましょう!」
と連れ出された!!
ラファエルのお部屋の洗面所で本当に水と石鹸で念入りに洗われた。もう何回目かと言うほどに。
「変な雑菌が入ってないか心配だよ!アマーリアさん!ああ、他にもいろいろ触られていた気がするよ!腰とか腕とか!」
「それはダンスだから仕方ないっ…」
そう言うとラファエルは私をギュッと抱きしめて
「アマーリアさんが他の男と踊るなんて…例え相手が王子でも許せない!貴方を独り占めしていいのは僕だけなのに!」
と言うのと同時にラファエルの鋼の糸は私に巻き付く。
「ごめんね…ラファエル…きっと不安にさせたのね。わ、私だって…うっっ…ラファエルだけよ…うううっ」
とラファエルの肩に額を押し付け泣いてしまう。ラファエルはそんな私を優しく撫でている。
どうすればいいの?ネックレスは取り返したいけど言えない。でもシメオン王子のとこに行ったら間違いなく私はシメオン王子に既成事実を作らされ、ラファエルと婚約破棄させられる。ラファエルの実の父親が犯罪を起こした事を国中に黙っている代わりにと私はシメオン王子の言うことを聞かないといけないのだ。噂は国を超えて他国にも知れ渡るかもしれない。
ただでさえ義弟との結婚に反対の貴族達がいるのにラファエルの見聞は更に悪くなり公爵家の信用も落ちラファエルは公爵の座から下される可能性もあった。ラファエルから薬を買うお客も減るかも?そうすると王宮薬師も辞めさせられて…。どんどん悪い事しか想像できなくなる。
どうしよう。するとラファエルは首筋にキスして言った。
「………アマーリアさん…ネックレスをシメオン王子に取られたね?」
と。
私はビクリとした。ラファエルが私のことを見ていない訳がない。それに付けているネックレスが無くなっているのだから気付く。
「あ…わ…私…その…」
震えながら泣いているとラファエルは優しくソファーに座らせて落ち着く薬草茶を淹れてくれた。
飲むと心が落ち着いてくる。
「アマーリアさん…?何を言われたの?シメオン王子に」
ラファエルは優しく背中を撫でた。
ラファエルは黒い瞳に私だけを映して返事を待った。
「…………今夜、公爵邸の裏に止めてる馬車に来てって…来ないとネックレスを返さないし、ラファエルのお父様が犯罪者だってこと国中…いえ他国まで知れ渡ってしまうわ」
「アマーリアさんを脅したんだね?可哀想に…」
「わ、私が行かないと……ラファエル…ごめんなさい…私…」
するとラファエルは私の頰に手を置いて口付けた。
「行かせるわけないでしょう?僕のことを思ってくれたのは嬉しいけど…シメオン王子の物に自らなりに行くなんてバカなことはさせないよ…」
「でも…王子の命令だし…ううっ。ネックレスだって私がちゃんと気をつけていれば取られなかったわ!」
自分がそもそも踊らなければ!!
しかし王子のダンスを断るなど出来なかった。
「ネックレスならまた買えばいい。僕の噂だって好きに流せばいいさ。例えそうなってもアマーリアさんを離すことは…離れることはできない!……ねえ、アマーリアさん…僕たちは運命の赤い糸で繋がっているんだよ?忘れたの?視えているんでしょう?引き剥がすことなんて誰にもできない!」
とラファエルはまた口付ける。
「もし僕が公爵家を継げないような事になったら…僕はアマーリアさんと駆け落ちするよ…」
「ラファエル……」
今だけはラファエルの執着愛が凄く嬉しく思えた。目を瞑りもう一度キスしようとしたら控えめにノックされてお父様が入ってきた。
どうやら今の会話を聞かれてしまったか。
「ラファエル…アマーリア…イチャイチャしているのを邪魔してすまないね。だが先程の話は本当かね?」
「お義父さま…僕はアマーリアさんを守りたいのです!例え公爵になれずとも!」
「いや、何を言っている?なってもらうに決まっている。誰がなんと言おうとも私の後継はラファエルと決めている!と前々から言ってるだろう!そんなに私が信用ならないのか?」
「そう言うわけでは…でも…王子の命令に逆らうなど…」
と言うとそこへアルフォンス王子とエレオノーラ様もやって来た。
「話は聞かせて貰ったよ!アマーリア、ラファエルくん!もうちょっとで弟くんが君を押し倒す所を邪魔してすまない」
「いや、何言ってるんですか。そんなことするはずないですよ!」
ラファエルは我慢できる子だもんね。
「何?俺ならもうとっくにエレオノーラを押し倒している…」
「もう!アルフォンス様ったら!」
「仕方ないだろう?エレオノーラが悲しんで泣いてる姿なんて見たら慰めてあげたいだろう?」
何こいつら。他所でやってくれない?
ゴホンとお父様が咳払いした。
「アルフォンス王子…そもそも貴方がシメオン王子を連れて来るべきではなかったのです!」
「だから勝手について来たんですよ公爵!くそっ!あいつめ!他人の物は自分の物みたいに思ってるからな…。昔から気に入った物を略奪して相手を陥落したら直ぐにその後は飽きて棄てるんだ。あいつにとっては寝取るまでがゲームのようなものなのだろう。後の尻拭いはいつも俺にさせてな」
「アマーリア様…大丈夫ですわ…アルフォンス様がなんとか救ってくれますわ!私の時もそうでしたもの!」
とキラキラした目でエレオノーラ様はアルフォンス王子を見つめた。違うし。このボケ王子は茶番劇で貴方を手に入れたと言うのに!
「そ、そうだあ!安心してくれたまえ!アマーリア!幼馴染だろう?困っていたら力になるさぁ!それに我儘なシメオンに仕置きは必要だ!今から手配するから君達はイチャイチャしながら待っていなさい!」
「え?大丈夫なんですか?…本当に??」
あんまり期待できないなぁ…。
「少しは信用したまえよ!!俺だって王子だぞ?…エレオノーラ!公爵!行きましょう!それからラファエルくん…」
と王子はお父様とエレオノーラ様を先に部屋から出して振り返った。
「なんでしょうか?王子」
怪訝な顔をするラファエルだが、王子が親指立てて
「数時間くらいで用意するから…その間検討を祈るよ」
とそっと怪しい薬瓶を渡した。
どう見ても媚薬であった。
そしてニヤニヤ笑いながら
「じゃ、ごゆっくりーーー?」
と出て行った。なんだあいつ!!?本当に大丈夫か!!?
とラファエルを見ると彼は赤くなり瓶を棚にさっさと置きに行った!
「全くあの王子は!!僕たちはそんな!子作りは慎重にと言うのに!全くあの王子は!!」
と2回くらい全くあの王子は!!と憤慨している。
「ラファエル…本当にごめんなさい…。ネックレス返ってくるといいなぁ。ごめんなさい。希少なものなんでしょう?」
「エレオノーラ様からお聞きしたのですね?」
「ええ…ついでにラファエルがメイドに襲われそうになったこともね!」
と言うとラファエルはサッと青くなる。
「僕はアマーリアさんを裏切ったりしませんよ?」
と慌てるのが可愛い。
「判っているわ…糸が証明してるもの…」
するとラファエルは私の手を取りキスする。
「………王子が変なことを言うもんで我慢するのが大変です…」
ラファエルの鋼の赤い糸が彼の頭にひょこっと狼耳がついてお尻には尻尾の形となった。
「す…少し暇ね…ラファエル…」
私はわざと視線を逸らす。
するとラファエルは我慢できないのか私をソファーに押し倒してしまった!!
えええ!?
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