第4話 生い立ちがあればこそ
僕は王都に棲む魔女サーラの元で薬作りの手伝いをしていた。
最初サーラが僕の親だと信じていた。
でもサーラは僕が読み書き出来る様になった頃全てを明かした。
「あんたは私の子じゃないんだよ。あたしは子供が産めない身体だからね。あんたの母はあたしの大事な親友だったんだよ?可愛い子だった。あんたと同じ黒い瞳に髪の毛を持っていたよ」
と告げられた。
それから母の名はリエラと言うらしいと聞いた。花屋の娘だったが、両親が先に死んで店を1人で切り盛りしていた。
そこに妻の誕生プレゼントにと街に来ていた僕の本当の父…ヴェルク・クレンペラー伯爵に見染められて母は本気の恋をした。妻子あるという伯爵に。愚かだと思った。伯爵はただの遊びであるし、母だけでなく娼館にも何人もの愛人を抱えていた。娼館の愛人は避妊薬を飲むけど母は伯爵に惚れていたので飲まなかったそうだ。
だから僕が生まれた。何度もサーラは避妊薬を母に渡そうとしたけど母は断り僕が妊娠したと知ればとても大事に育てた。
何度も父は下ろすようにと母に言った。母は首を振る。愛する人の子を欲しがって。
父はついに認めず、身重の母を何度も殺そうとしたそうだ。
母はサーラにより守られた。魔女が親友で良かったと言われ、母はある月の綺麗な夜に僕を産み落とした。サーラの家にしばらく一緒に母と僕と3人で暮らしていたけど、母が買い物に1人で出かけた時、誰かに階段から突き落とされ命を落としたそうだ。
目撃者はホームレスのような奴が突き落としたと言っていたが、ホームレスが人を殺すような所業は金を貰った時くらいだ。
だからすぐにサーラには判った。伯爵が…僕の父がホームレスに金をやり母を殺させたと。
サーラは僕を引き取り、伯爵に何度か会いに行ったがもちろん伯爵は金も寄越さず認めなかった。追い払われサーラは馬鹿らしくなり諦めて僕を大切に育てて弟子にしてくれた。
一度だけサーラに連れられて伯爵を見に行ったことがあった。父は貴族らしく夜会に出て笑ってた。その子供や妻と共に。
父の髪色は茶色で瞳は碧だった。父に似なくて良かったと思った。
サーラは何度も
「あんな男みたいになっちゃダメだよ!ラファエル…最初だけ偽りの優しさを向ける男は勘違いさせる。リエラみたいに…。リエラが寂しいのは知ってた。1人で生きてきたんだ。そこにつけ込まれたんだ…」
「母さんは愚か?」
ポツリとそう呟いた僕の頭を撫でた。
「愚かではないよ…ラファエルを産んだ…。ラファエルを愛していた。あんな男でも愛していた。愚かなのはあの男の方さ………でもね……いくら憎んでもいけないんだ。ラファエルが父親を殺そうと考えたら同じことになってしまうだろ?無駄だよ」
と言われ、それもそうかと納得した。
僕には父親なんていらないのだとそう思うことにした。一度だけ見た男も父とは思えなかったしどうでも良かったのが本音だ。
*
それからしばらくして公爵家の使いと共に自ら公爵様がオリヴァー・アヒム・フローベルガー様がサーラに頭を下げて妻の薬を作って欲しいと頼みに来た。もちろんサーラは公爵家の為に薬を調合した。奥様の身体は弱かったが、医者に見せてもどうにも原因がわからず弱るばかりだと言われたそうだ。
そこで国中の医者や魔女を訪ねていた。サーラのとこに来たのは偶然。僕もサーラの手伝いをした。薬草を図鑑で全部覚えて効能も覚えた。当てはまる奥様の症状を何度かサーラはメモして独自の薬を調合しついに完成した。それは奥様に大変効いた。
医者は後余命3ヶ月とか言ってたらしいがサーラの薬で奥様は元気になられたようで全然3ヶ月ではなく今も軽い症状がある程度で命は続いてる。本当に良かったと思う。オリヴァー公爵様は僕の働きを時折ジッとみており
「君はとても優秀で賢くていい子だな!養子に欲しいくらいだ。うちにはもう子供は望めないし後継となる男子もいないしなぁ…」
と笑っていた。その時は冗談だと思っていた。
何故かサーラはその日から僕に今まで以上にしっかりと薬の調合や知識など全てを教えるようになった。
それからしばらくして…
サーラはいきなり倒れた。
僕が買い物から帰ると床に倒れていた。うつ伏せだから急いで仰向けにした。
サーラは元々心臓が悪くちゃんと薬を飲んでいたけどその日は飲み忘れたようで薬は出しっぱなしだ。
急いで薬を手にして戻るけど一歩及ばずサーラは息を引き取った。
何度も心臓マッサージをしたけどサーラが息を吹き返すことはなくて僕は涙を流し泣き叫ぶ。
「死なないで!サーラ!!…逝っちゃいやだ!!僕を1人にしないで!!」
サーラの死を知った公爵様が飛んできてくれ、慰めてくれた。僕は泣きながら
「奥様の薬作りは僕が引き受けます…うぐっ」
とこれから1人でやっていかねばと思っていた。僕も15だし。
しかし公爵様は
「ラファエル…うちの子に…ならないかね?」
「で、でも…僕は庶民の出で…父も僕を認知してくれなかった…」
「それがどうしたね?ああ…私には1人娘がいるんだ。君の一つ上さ。アマーリアと言うんだ。君は弟になるね…。そして公爵家を継いでもらいたい。妻の薬を作れるのも君だけ」
「僕が…公爵家へ………」
一瞬…公爵家へ行けばあの酷い伯爵家を潰せるくらいはできるんじゃないかと思った。
でもサーラはそれを望まないし、亡くなった母も望まないだろう。本当の父のことは忘れようと誓ったのに。
「私がお義父さまでは嫌かね?」
僕は小さな子供のように涙が溢れた。
首を振り公爵様に連れられて僕は公爵家に行った。
そしてこの世でとても美しいお姉様と出会ってしまった。僕は今までそんなに女の子に興味はなかった。薬草を覚えるのに必死でそんな暇はなく、街で女の子に声をかけられても本ばかり読んでいた。もちろん可愛い容姿の子はたくさんいたけどなんか興味は持てなかった。僕は前髪で顔を隠していたから僕の容姿を気にかける子はほとんどいなかった。
アマーリアお姉様は僕に初めて会って最初はそこそこは可愛い容姿だなくらいにしか思わなかった。でも公爵家に来てサーラのことでまだ落ち込んで心が弱っていた。そんな時にお姉様は優しくしてくれた。
お菓子をわざわざ自ら焼いてくださり洋服も気晴らしに合うものを探してくれたり。笑顔を絶やさない人だった。僕が薬を作っている所を見学して
「すごーーい!!こうやって作るんだあ!!この薬草なんだろ??」
「それ気を付けて。かぶれますよ」
「げっ!!」
とやな顔して引っ込めたり。お姉様が薬をひっくり返してお義父さまに叱られたりお姉様といるとおかしくて暖かくて寂しさを埋めてくれた。
ある日温室で寝ているお姉様がいた。温室に日差しがさしてお姉様を包んでいて…なんだか天使が寝ているんじゃないかと思い、僕は初めて異性を意識してしまった。
初恋発動だった。めちゃくちゃに遅いと思ったし、お姉様には王子様の婚約者がいると言うのに!これでは母と同じではないか!!
でもサーラは母のことは愚かではないと言った。
なら…僕も例え実らなくとも想っていてはいいだろうか?
その日からお姉様のことが気になって仕方なくなった。毎日、王子のお茶会に呼ばれて行くお姉様の姿を見て絶望したり嫉妬したりした。お姉様が好きで自分はおかしくなってしまった。どうにもならない気持ちなのに手に入れたくて仕方ない。繋ぎ止めたい。
ストレートの銀髪にアメジストの綺麗な瞳…僕の真っ黒は色とは大違い。
時々お姉様はそんな僕に焦ったようになる。
まさか僕の気持ちに気付いて?いやまさか。
いや…まさか…。僕の部屋の前を誰か通ったとしてもそんな…いやいやいや…。
お義母様に薬を渡した後、姉様に寝る前のホットミルクを持ちながら部屋を開けて渡す。いつもの習慣だ。これには疲れが飛ぶように栄養剤やしっかり休まるように安眠効果もあるようなものも入れてある。
姉様は眠くなったようで船を漕いだようにこくりこくりとしていた。
「お疲れ様です。アマーリアお姉様………………………………愛してます」
最後の方はポツリと言った。
「え?」
と聞こえてないかのように言う姉様に
「お休みなさい」
と言い、眠るのを待った。
この人には幸せになってほしい。でもできるならそれは僕でありたい。いざとなったら姉様を王子から奪って逃げたい。
そんな気持ちだったけど、後日王子と話して王子は僕の味方になった。
*
それから僕は王宮に経つ前にお姉様に想いを告げキスをした。僕のことを好きになってほしい。姉様が他の男と結婚するなら死ぬ。姉様を殺し、僕も死ぬ。そうしたら天国でも一緒にいられるかな?
一週間後に帰ると隙を見てキスした。そのまた一週間後も同じように隙を狙った。それからも一週間後帰るたびにチュッと唇にキスをする。
お姉様の油断している所を狙うが簡単に騙されるので少し面白い。
これが他の男にやられたらそいつは八つ裂きにしてやりたいけどね。
もう少しだけ姉様が僕のことを好きになってくれたら…もっと愛してもいいよね?もしかしたら僕の愛は歪んでいるのかもと思うけどこの好きは止められない。きっとお母様もあの父にこんな気持ちだったのかもしれない。自分の気持ちがけして届かない一方通行の恋なんて。
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