第298話 一番論理的に判断しそうだが、実は一番偏ってる意見
いきなりのパワーアップイベントから、まさかの恥ずかしい変身セリフに躊躇してしまう。
「あらあら、詩。さっきまでの勢いはどうしたのかしら?」
踏ん切りのつかない私に近づいてきたエーヴァが、屈んで私の足下にいるシシャモの額を撫でる。撫でられたシシャモは目を細めて頭をエーヴァの手に擦りつける。ただそれだけの動作なのに、可愛らしく見えてしまうのは正直ずるいと思う。
「いや、あんただって、いきなりそんなこと言えないでしょ。普通さ自分で可愛いとか言わないし。しかも世界一とか、調子に乗るなよって感じじゃん」
文句を言う私にエーヴァはふふっと笑うと、ゆっくりと右手を天に掲げる。
「今、スピカ様の力を借りてわたくしは新たな力を手に入れますの。世界で一番可愛いエーヴァちゃんにな~れ!」
くるッと華麗にターンしながら、ウインクに投げキッスまでしてみせるエーヴァに私はあごが外れそうになるほど口を開けて唖然としてしまう。
「スーも!スーもやりたいのです!」
拳で空気を切りながら拳法の型のような動きを見せたあと、天に右手を伸ばす。
「いま! すぴか様の力を借りてスーは新たな力を手に入れるのです! 世界で一番可愛いスーになーれ! なのですー!」
バク転してドヤ顔で私を見るスー。そして真ん中に両手を広げた白雪を中心にして左右にエーヴァとスーが左右対称のポーズを取り、後ろでシュナイダーが遠吠えをする。
「それだけ堂々とできるなら、あんたらがやりなよ……」
息のあった二人と二匹に私は適当に拍手を送る。
【シシャモは詩としか合体できないニャ】
「って言ってるぜ。空間転移がどれほどのものか見てえし、早いとこ変身して試してみようぜ」
「うた! 変身なのです!」
エーヴァとスーに詰め寄られ、私は頬を人差し指で掻きながら答える。
「あ、いや……可愛いとかそんなことを自分で言うとか……いやぁ~その、恥ずかしいじゃん?」
素直に恥ずかしいと言う私を、エーヴァとスーそしてシュナイダーが目をパチパチさせ見ている。
「今の詩の姿が可愛いと思いますわ」
「そうなのです! 可愛いのです」
「ふむ、いつも元気な娘が見せる、意外な一面ってヤツか。恥じらう姿が可愛いな」
いつもの調子ではなく、ストレートに「可愛い」を伝えてくる二人と一匹に、私は自分の顔が熱くなるのを感じてしまう。
「い、いや。だから可愛いってのはさ、ほら! エーヴァとかスー、あとは美心とかをさす言葉であって私は入らないわけよ」
熱くなった顔を手で仰ぐ私をジッと見ていたエーヴァが、おもむろにスマホを取り出し画面を見つめる。
「電波が届きますわね。わたくしたちの言葉が信じられないなら、詩が信じられる人に聞いてみればよろしいんじゃなくて?」
「信じられる人?」
「そうですわ。嘘をつかずいつも真面目で論理的な方……そうですわね、ミヤとかオススメいたしますわ」
「宮西くんかぁ。まあ確かに博識だし、感情うんぬんじゃなくて、一般的な常識に照らし合わせて物事を冷静に見極めてくれそうだね。分かった、聞いてみるっ」
私がスマホを取り出すと、エーヴァが微笑む。
「詩、ビデオ通話で顔を見せて聞いた方がいいですわよ。顔を見せた方が判断しやすいはずですわ」
「あぁ〜なるほどね。分かったありがと!」
私はアプリを開いて宮西くんにビデオ通話を行う。
数秒待って通話が繋がると、緊張した面持ちの宮西君の顔が現れる。
かくいう私もビデオ通話に慣れていなくて、緊張していたりする。
「突然ごめんね。ちょっと聞きたいことがあるんだけど今いいかな?」
「は、はい。い、いいですよ。どーぞ」
壊れたロボットみたいにカタカタしながら話す宮西君は、説明モードではなくいつもの宮西君である。
そのぎこちない動きは、先ほど表現したロボットのようで、それはつまり余計な感情を排除した、完璧な答えをもたらしてくれるに違いないという確信の証でもある。
「じゃあ担当直入に聞くけど、私って可愛い?」
「え?」
私の質問に宮西君は目を見開きジッと見つめる。なんだか緊張するが、今彼の脳内ではあらゆる分野などから得た知識を総動員し、私が世間一般的に可愛いかを計算しているに違いない。
なんとも頼もしいことである。
「か、かわわわわっ」
壊れたラジオのように「わわわわ」を連呼する宮西君。これは私が規格外的生命体で、可愛いに該当するまでもない、つまり平均以下といことか。
突然宮西君の頭を見慣れた手が叩く。
カコーンといい音をたて、メガネがズレた宮西君の後ろから、これまた聞き慣れた声が聞こえてくる。
「ちゃんと言いなさい! チャンスよ! チャンス!」
チャンスの意味は分からないが、メガネがズレたまま宮西君は私を真っ直ぐ見つめる。いや、メガネがズレているので視線は微妙にズレている。
「かっ、可愛いです……」
その言葉を聞いて私はなんとなくホッとした、というよりも嬉しく感じてしまう。
「そっか、宮西君が言うなら間違いないのかな? ちょっと自信持てたかも。でもまっ、直接言われると恥ずかしいね。うん、でもありがと、面と向かって可愛いって言われたことないから嬉しかった」
恥ずかしくなった私が頬を掻き、照れ笑いをしながらお礼を述べると、画面の向こうの宮西君が「ガハッ」と断末魔をあげゆっくりと後ろに向かって倒れる。
「え? どした?」
慌てる私に宮西君の代わりに画面に写った美心がグッと親指を立てる。
「ナイス詩! 効果はバツグンよ!」
「どいうこと?」
私の質問に美心が答えることなくビデオ通話は切られてしまう。意味が分からないまま、振り返った私をニマニマしたエーヴァたちが並んで見ていた。
「これで詩が可愛いのだということを、信じてもらえたかしら?」
「うん、そうだねとは恥ずかしくて言いづらいけど、まあ宮西君が言うなら、そうなんだと納得する」
私が答えると、足下にシシャモがすり寄ってくる。
【準備はいいかニャ?】
「うん、やるよ」
決心した私は大きく頷く。
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