第297話 パワーアップイベントきたぁー!

 メガパーくんを倒した瞬間に外皮を破り体内から発射される金色のダンゴムシ。

 体を破る方向もまちまちで、どこへ向かって飛んでいくのか皆目見当がつかない状況で、決まったことは彼の名が『ゴールデンパーくん』に決まっただけである。


 一応力学、空気抵抗など諸々の計算をふまえどの程度の距離に飛ぶかは計算できたが、射出方向が分からないゆえ、会議は困難を極める。


 最終的に決まったのが、全方向に人員配置という、なんともパワープレーな作戦である。


「力こそパワーなんだと有名な言葉がありますわ。これに尽きますと思いますの」


「本当にそれ有名なの? ってかあんたさ、最近意味の分からないことを言うことが多くない?」


 私の問いかけにエーヴァはふふんと笑い、私を指さす。正直なんなんだコイツはと思いながらもドヤ顔のエーヴァがなにを言うのか気になるので言葉を待つことにする。


「わたくしは日本の文化に触れ、多くの言葉を知る中で日本人の言葉の多さ、そして遊び心に感銘いたしましたわ。毎日がエブリデイなんて洒落がきいていると思いませんこと?」


 自分で言っておきながら可笑しくなったのか、口元を押さえてクスクス笑い出すエーヴァに私は哀れみの視線を送る。


「つまり、相手がこっちの想像を超える力を見せるなら、それを超えればいいってことだ。簡単だと思わねえか?」


「うわぁ〜すごい頭の悪い考え方。でも、嫌いじゃないな」


「詩もたいがいなのです。けど、単純になにか一つでも超えれば、勝機がみえるのは間違いじゃないのです」


 私たち三人はそこまで言葉を交わし、同時にシュナイダーを見る。


「ってことでよろしく」

「頼みましたわ」

「やるのです」


 いきなり三人に振られたシュナイダーは目を丸くする。


「いや、いきなりオレに言われてもスピードも力も単純にゴールデンパーくんの方が上だろう」


「そこをこう、なんとか超えられないわけ? よくあるじゃん、戦いの中で成長するってヤツ」


「いや、ないだろ普通」


「珍しく普通に返すじゃん。もーなんかないの? こう、都合のいいパワーアップイベントみたいなの?」


【あるニャ】


 私がエーヴァたちに話しかけていると、突然頭の中に声が響く。その聞こえ方から私は白雪を真っ先に見るが、白雪はキョトンとして首を傾げて長い耳を垂らす。


「今誰か喋った?」


「なに言ってんだ? さっきから皆喋っているだろ」


「あ、いやそうじゃなくて語尾にニャをつけて……」


 私はスーを見るがスーは不思議そうに見返すだけである。


「スーはニャなんてつけないのですニャ」


 わざわざ「ニャ」をつけてくれるスーの可愛さを満喫する間もなく、再び頭の中に声が響く。


【どこ見てるニャ。もう忘れたのかニャ】


 私は頭に響く声の主を求めキョロキョロする。


「遂に私も幻聴がぁ! ストレス社会の現在は転生者には辛く厳しいものだったんだ!」


【なにを意味の分からないことを言ってるニャ】


 ストレス社会に絶望する私の右手が光ったかと思うと小さな光の球が飛び出てきて、地面に落ちると弾ける。


 弾けた光から真っ白な毛並みの小さな猫が姿を現す。ふわぁ〜っと大きなアクビを一つした猫は私を見上げる。


【忘れたかニャ? スピカ様に預けられたシャモニャ! ようやく詩と体が馴染んで目が覚めたニャ】


「あっ! ああ〜あったねそんなこと。すっかり忘れてた。って体が馴染む? どういうこと?」


 前足の肉球をペロペロと舐めながらシシャモが答える。


【そのままの意味ニャ。詩の体にシシャモが馴染んだってことニャ】


「あ、いや。なんにも説明受けてないんだけど、あんたと馴染むと私はどうなるわけ?」


 私の質問にシシャモは肉球を舐めるのを止め、前足のキラリと光る爪を私に向ける。


【シシャモたちスピカ様の眷属の能力は『空間移動』ニャ。スピカ様みたいに次元は超えれないけど、遠く距離ならひとっ飛びニャ】


 その言葉に私は目を見開く。そう、まさかのパワーアップイベントがこんな唐突に自分の身にやってくるとは予想だにもしていなかった。


「じゃあ、じゃあ早速!」


 興奮する私にシシャモはニンマリと笑みを浮かべる。


【任せるニャ】


 ニャンといきなり訪れた私のパワーアップイベントに舞い上がっていると、イベントを邪魔する声が差し込まれる。


「空間移動とかホントかよ。そんな技使えるやつなんて前の世界でもいなかったが、この猫のこと信じられるのか?」


【そーよそーよ! 可愛い枠は白雪ちゃんだけで間に合ってるぴょんよ!】


「そうだわん! 動物枠もボクと被るわん!」


 エーヴァの苦言に、アニマルズが自分たちの立場を守ろうと変な語尾で個性をアピールして訴え始める。


【なんニャあの変な生き物たちは。詩も苦労するニャ】


 シシャモの辛辣な言葉に、アニマルズがぶーぶーと文句を言い始めるが、当の本人はどこ吹く風で、涼しい顔のまま私を見る。


【外野はどうでもいいニャ。要は実力を見せて黙らせれば問題ニャいわけニャ】


「確かに」


 私はシシャモと目を合わせ互いにニンマリと笑う。


【それじゃあ、まずはシシャモと合体して変身ニャ!】


「合体⁉ へ、変身? どいうこと⁉」


 思いもよらない言葉に私が思わず聞き返すとシシャモはさも当然と頷く。


【右手を天に向け開いてこう叫ぶニャ! 『今、スピカ様の力を借りて私は新たな力を手に入れるの! 世界で一番可愛い詩ちゃんにな~れ!』ってニャ!】


「うわー……ハードル高いニャー」


 ウインクするシシャモが放つセリフを否定する私の語尾はおかしくなる。

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