第291話 団子より仲間

 変に考えすぎではないかと思う。


 シンプルに攻撃性だけを突き詰めればそれは強さではないか。


 シンプルに行こう!


 様々な企画を考え行けると踏んだが結果が芳しくないとき初心に帰り余計なものを削ぎ落としシンプルに行こうと、そう思うのは人間だけでなく宇宙人もそうらしい。


 ヤッシーは考え込むために組んでいた蟹脚を解き大地に立つ。


 打てる手はもう多くない。最後の仕上げのためにもここである程度の成果を上げたいところである。


 ヤッシーはシャカシャカと地面を歩き小高い丘から人の住む町並みを見下ろす。



 ***



 念願のマイホーム。考え方は人それぞれだが、それを人生の目標にしている人もいるであろう。

 それ故に建てたときの喜びもひとしおであり、壊れるときの絶望も計り知れない。


 自然災害と言えばそうなのかもしれない、これは保険が下りるのか?

 家をボリボリ食べる黒い奴らにそんな疑問を冷静にいだけたのも束の間、背後からやって来た別のヤツに押し潰され自分も食われることになるとは家の主人も想像もしていなかっただろう……。



 ***



 会議室と言えば聞こえは良いだろうが、実際は物置に近い場所に折り畳み式の長机と椅子を並べただけの簡易的な部屋。


 とは言え、ここは宇宙防衛省内部であり一般人は入れない場所である。


 そんな場所に女子高生二人と、同じ制服だが銀色の髪を束ねお団子にした留学生らしき子に、小学生にも見える中学生くらいの女の子と赤毛の犬が並んでいる。ついでに眼鏡をかけた男子が一人。


「はいはーい! 質問でーす」


「はい、詩さん」


 写真が沢山貼られたホワイトボードを背にした坂口が大きく手を上げた詩を指示棒で差す。


「唾液から今度の敵がダンゴムシであることが濃厚だと言うのは分かったけど、ダンゴムシって肉食なんですか? それに家まで食べたってシロアリとかの方がしっくりくるんですけど」


「ほう、それは中々いいとこをついている。だが……」


 坂口がニヤリと笑いながら目をつぶり腕を組む。口を開こうとした瞬間立ち上がるのは眼鏡の少年こと宮西である。


「さすが鞘野さん! その考え方は間違ってないと思う。でもね、ダンゴムシは雑食! 落ち葉から生き物の死骸まで食べ、更にはコンクリートなんかも食べるとされているんだ。それはね、ダンゴムシの生態に関係していて身を守るための背中の殻を構築するのにカルシウムが必要だからなんだよ。

 そういうわけでカルシウムを取るために鉱石、コンクリートなんかを食べるから巨大化すれば家を食べるのも納得がいくんだ。

 対してシロアリも実は雑食でコンクリートを食べるんだけど、基本は木材などに含まれるセルロースが大好物であるからして、今回被害にあった鉄筋コンクリートで作られた家を好んでかじるのは可能性低いんじゃないかと考えられるんだ。そもそも唾液の成分もダンゴムシとシロアリじゃ違うしそのあたりも考慮すると今回の事件の犯人はダンゴムシではないかと推測出来るってこと!」


 鼻息荒く一気に喋る宮西がドヤ顔しているところに美心が手を上げる。


「はいはーい。先生が話そうとしてるのに遮るのよくないと思いまーす」


「えっ」


 美心に言われ宮西が慌てて坂口を見ると、白くなった坂口が壁に寄りかかって涙を流している。


「詩の前でカッコイイとこ見せたい気持ちは分かるけど空気は読んだ方がいいと思いまーす」


「い、いやべ、べつにカッコイイところとか、ち、違う。あの坂口さんごめんなさい」


 宮西が謝るのを手を上げて白くなったままの坂口は「いいんだ」と答える。


「カッコイイとこ見せたいの?」


 詩が首を傾げ不思議そうに宮西を見つめる。


「あ、い、いえ……そんなつもりは」


 詩に見つめられ宮西がたじろぐ。


「別に無理して見せなくても宮西くんはいつもカッコイイじゃん」


「ほい!?」


 思わぬ詩の発言にいつもより二オクターブほど高い変な声で返事をする宮西は顔を真っ赤にしてしまう。


 目を丸くして驚くスーと頭の上の白雪に、興味津々と言った感じのエーヴァとシュナイダーが二人を見る。そして美心は終始ニヤニヤして見ている。


「敵の情報を知ることは戦闘においてとても重要なこと。知識は武器になるってことをこんなにも教えてくれた人いないもの。だから宮西くんのこと私は凄くカッコイイって思うけどな」


 これでもか! と言わんばかりに全身を真っ赤にして照れる宮西を周囲のメンバーは面白そうに見ている。

 白くなっていた坂口もちょっぴり色を取り戻し宮西の方へ目を向ける。


「そんな宮西くんのこと私は──」


 頭が弾けるのではないかと心配になるくらい宮西は顔を真っ赤にする。


「とても大切な仲間だと思ってるよ!」


 嘘偽りのない屈託のない笑顔で宣言する詩に白雪は額を押さえ、坂口は色を取り戻してニンマリとする。


「残酷ね詩」


「酷いですわね」


「上げて落とすとか、きちくなのです」


「安らかに眠れ宮西」


 みんなが思い思いのため息をつくのを詩は不思議そうにキョロキョロして見回す。


 風が吹けば塵になって消えてしまいそうなほど風化した宮西を首を傾げ見る詩を美心が突っつく。


「しばらく動かないからそっとしておいて。今詩が話しかけるとトドメにしかならないから」


「どういうこと?」


 美心が頭の上に疑問符を飛ばす詩の頭を強引にホワイトボードの方へ向けさせ、咳払いを一つして生き生きと話し始める坂口の説明が始まる。


 次なる敵がダンゴムシかもしれない。そんなことよりも立ったまま動かない宮西の方が気になる詩であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る