第231話:この星の住人は逞しい(猫巫女さん談)
教室の窓から見える学校のグランドを見る。昨日雨が降ったせいでぬかるんでいる地面と、いつもより荒れたグランドには緑の草が目立っている。
宇宙獣の存在が公になってから部活動は中止となり、人があまり入らなくなった場所というのは、すぐに荒れ果てていくものだなとしみじみ思う。
喧騒のないグランドを見つめる私の肩がポンポンと叩れるので振り返ると、美心が立っていた。
「考えごと?」
「んー、まあ」
「色々考えることもあると思うけど、考えすぎは体に悪いよ。基本は今までと同じ感じでいいんじゃない?」
「行き当たりばったりってこと?」
「まあそんな感じ。でも周りはそうさせてくれないでしょ?」
私の問いに頷いて肯定しつつも、否定する。美心の言わんことは分かる。
初めて戦ったときから仲間は増え、わたしが会ったこともない人たちも協力してくている今、取り巻く環境は確実に変わった。でも私自身がやることは変わらない。
向かってくる宇宙人を倒す。
それだけだ。
「シルマの話だと、縞タイガーとの決戦が近いだろうってことだし、待ってればそのうち来てくれるよね」
「そうそう、詩は全力で向かえば後は周りがどうにかするよ」
「うん、そうだよね。ありがと! 気が楽になった」
「どういたしましてっ」
前世でも大きな戦いに臨んだ私だが、今回のようにメインでしかも象徴として戦ったわけではないから変に気負いしていたところがあった気がする。
実際、私に出来ることなんてそんなにないんだから、周りに頼ってしまえばいいんだ! そう思うと気が楽になる。
「そうそう、私の方もさ。お母さんに白雪のぬいぐるみのこと打ち明けたっていうか、う~んバレちゃった」
「ええっ! それ大丈夫なの?」
「いやあそれがさ、お母さん最初は怒ってたけど詳しく話したらやる気出しちゃってさ。手伝ってくれるって」
「はぁ?」
そう言って美心も興奮気味に話し始める。そう言えば美心のママもこと裁縫関係になると人が変わったようになったなんて思いながら美心の話に耳を傾ける。
「でね、私の手伝いをしてくれるって言ってくれたんだけどさ。まずはって、坂口さんを呼び出してぇ。なんとっ! 国からぬいぐるみ作りの予算が出るようにさせたんだよ! 凄くない? 無限課金だよ!! これぞ税金の正しい使い方だよ!」
無限課金ってなんだろ? そんな疑問を感じながらも、美心ママが坂口さんを正座させて予算を出すように攻める姿を想像してしまう。
美心ママならやりかねない……この親子恐るべし!
「それに、ぬいぐるみの移送問題についても、自衛隊の方でサポート体制を検討中なんだって!」
スーの方は着々とサポート体制が出来上がってるみたいだ。私とエーヴァの武器についても、おじいちゃんを中心に改良が加えられるとのことだし、シュナイダーも動物たちとの連携を強化しているらしい。
みんながそれぞれ出来ることをしている、そう考えるだけで気持ちは軽くなる。
私は美心と話しながら一緒に帰る。その帰り道に街の中を通るのだが、今町にあふれているものを見て笑みがこぼれる。
『宇宙人』ではなく『宇宙獣』と政府が発表した。これは単純に見た目が地球上の動物がベースとなっているからである。『人』と呼ぶのと『獣』と呼ぶのでは大きく国民の支持が変わると偉い人達が言ってたらしい。表現が大事なのは、なんとなく分かる気はする。
それとパニックになる可能性があるからという理由で、宇宙獣は既存する動物に寄生するという事実は伏せてある。こっちに関してはよく分かる。
もし知れたらパニックなることは想像できるし、実際人にも寄生したことがあるから、これを知られたら周囲の人への寄生を疑い人同士が争い始めたら大変だ。
これらに合わせ、宇宙獣が人の生活に欠かせない電子機器の活動を阻害する電波を発することを発表している。つまり身近な電子機器が異常を起こせば宇宙獣がいるし、不具合を起こさないってことは近くに宇宙獣がいないのだと安心する材料になるわけだ。
それから宇宙獣に対抗する存在として、わたしこと『猫巫女』とその相棒白雪こと『白ウサギさん』の存在が公になったのだ。
宇宙獣を倒せる分かりやすい象徴と親しみやすさから私たちが前面に出たわけだが、もう一つ理由がある。
それが町にあふれる、『猫巫女』グッズと『白ウサギさん』グッズである。
私の方は親しみやすさと認知してもらうこと重視だが、白雪にはもう一つ別の意味がある。
私たちとすれ違う三人家族の女の子の腕には、大きな白雪のぬいぐるみが握りしめられている。
お店に並ぶぬいぐるみの中に一際存在感を放ち並ぶ、白雪のぬいぐるみ。もちろん本人ではなくレプリカだが、こうすることで本物の存在を隠すことが出来る。つまり木を隠すなら森、白雪を前面に出しスーが白雪を持っていても違和感なく動ける状況を作り上げたのだ。
宇宙獣がいつ襲って来るか分からないから夜になるとほとんどのお店は閉まってしまうし、町には警察や自衛隊の人たちがパトロールをしている姿が目立つようなった。
今までとは違う空気を感じる。それでも、猫巫女と白うさぎのグッズを売っている人やそれらを買う人たちを見て、危機が迫っている今の状況に対して危機感が足りないとか、のんきだとか言う人もいるかも知れない。
でもそれで良いじゃないかと思う。暗くて落ち込んでいるよりも何倍もましだと私は思う。
この星の人たちは何だかんだ言って強くて
な~んて、どこかの缶コーヒーを飲む宇宙人みたいなことを考えてしまったなと、猫巫女で自称宇宙人な私は笑みがこぼれてしまうのだ。
美心に手を引かれ歩く私は、その手の温もりを感じながら、自分の出来ることを全力でやってやろうって強く思うのだった。
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