第213話:その剣、円を描く
作戦名『八犬ニャン』は伝達され、事前に知らされていた行動が開始される。
消防隊と自衛隊がチームを組み消防車を中心にしてホースの先端を伸ばしていく。ただしホースの根本は消防車と接続はされていない。
そしてあえて火が広がらないように注意しながら、火をつけていく。
そして七匹の犬と一匹の猫はジラントの周囲に散開し、姿を見せないように物陰の間を器用に潜り抜けながら走り回る。
ジラントの探知能力は、蛇特有の赤外線による熱感知と、『索敵』の頭が発する超音波のはね返りによる
先程まで消えていく火が増え始めたせいで、熱探知の制度が落ちていく。そして、八匹の小動物が物陰を駆け回り、反響定位の制度も落ち始める。
八個の頭がそれぞれシュナイダーを探し始める。
目の前を横切り車の影に飛び込むシュナイダーに『盾』は目を光らせ、他の頭に情報を送る。だが車から出てきたときは、別の犬が飛び出し駆けていく。
熱探知による索敵を行うが、『鈍器』からシュナイダーを見たと伝達がなされる。
そうこうしている内に『牙』が発見したと、『舌』が物陰に何かいると伝達がひっきりなしに飛び交う。
八つの脳があり、それぞれが独立しているが、伝達の混乱を避ける為メインの頭を切り替え、一旦メインに集め再伝達し情報を共有するせいで今、大量の情報に混乱が生じ始める。
餌である人間がウロウロして攻撃しているその横を四足歩行の獣が駆けるが、形が違うし攻撃もしてこない。そう思っていたら別の頭が攻撃を受ける。
だがそれは獣によるものではないと判明し、メインの頭を切り替えつつ一番警戒すべき敵を探す。
今のメインは『索敵』、超音波を発し音の反射を拾いながら探す。この間他の頭はやや単純な思考に陥る。そして『四方』は自分の前にやってきた獣に対し反射的に口を開き攻撃を開始する。
目元に傷のある野良犬は、短くなった尻尾でバランスをとりつつ『四方』のギリギリ前を急旋回で駆ける。
警戒すべき敵ではないが、煩わしいので捕食し数を減らそうと口を最大限に開くと、乱暴に頭を振り周囲の物を破壊しながら野良犬を食わんと突き進む。
野良犬は死に物狂いで回避していくが、破壊され飛んできた自転車が当たってしまい短い悲鳴を上げると地面に転がる。
そのとき消防隊員たちが引っ張て来た消火ホースの先端をシュナイダーが咥え、野良犬とジラント間に飛び込むと、自ら『四方』の口の中へ飛び込む。
「このホースだと知らせろ!!」
口に飛び込みながらシュナイダーが叫ぶと、建物の上から飛び降りて来た野良猫がシュナイダーが咥えた消火ホースの上に飛び降り根元の方へと走り始める。
自ら入ったとはいえ、体内の中に入るのは気持ちのいいものではない。消防ホースを咥えジラントの体を奥へ奥へ奥へ向かって走る。
その間にホースを辿って走っていった野良猫が根元にたどり着くと「にゃっ」と短く鳴いて知らせる。
「このホースを繋げ!! 早急に放水開始だ!!」
消防隊の隊長の号令で野良猫が知らせた消火ホースは消防車へ繋がれ、放水が開始される。
* * *
「来たっ!!」
先端から勢いよく水が噴き出すのを見てシュナイダーは、ホースの先端を踏みつけジラントの体内で放水を開始する。
「さて、まずは」
赤い毛並みが揺れると一本一本の気が赤く光ると、一気に炎を噴き出し燃え始める。炎が燃えれば足元を勢よく流れる水が蒸発する。
もくもくと熱気を帯びた水蒸気は、シュナイダーが熱波と共にジラントの体内に流し、内側から蒸し始める。
外ではジラントの動きが止まり各頭が口を開き、中から水蒸気を吐き出している姿を見て高橋たちは作戦が最終段階に入ったことを知る。
体内に放水し、中から蒸し焼きにする。そんな無謀な作戦の成功を今はただ祈る。
祈りを受けた炎が体内で燃える。
「まだまだぁだああああっ!!」
炎は更に激しさを増し大きくなっていく。消化ホースが焼けちぎれ、続けられる放水で先端が暴れ水をまき散らす。その水も直ぐに蒸発し熱気となり、シュナイダーが広げる風に乗って体内を巡る。
「来たか」
炎を吹き上げるシュナイダーが、体内の壁から生えた蛇を睨んでニヤリと笑う。
体内の壁で形成された蛇は、皮膚がピンク色をして皮が薄いのか脈打っているのが確認できる。それはまるで臓器が意志を持ってうごめいているかのようにも見える。
「まったく、体内まで生えてくるとはどこまでも化け物よ! だがオレはそれを凌駕するほどに強いぞ!!」
炎が更に勢いを増し立ち昇る。
「これだけの時間魔力を練らせてもらえればオレでもそれなりの形は作れる。今、スーの
立ち昇った炎に顔を突っ込むと炎でできた柄を咥え炎から引き抜くと、燃え盛る巨大な刀身が現れる。
炎でできた刀身の周囲には大きなトゲがびっしり生えており、シュナイダーが姿勢を低くし構えるとトゲは刀身に沿って回転し始める。それはまさにチェーンソーそのもの。
「まだ力の制御が上手くできぬ故、刃が大きいが切れ味は保証するぞ。この『
首を振り、劫火輪転を振るい体内に生えてきた蛇を切り裂くと、切り口から燃え広がり切れた蛇は燃え尽きる。
「おおおおおつっ!!!!」
吠えるシュナイダーに合わせ毛並みは業火となり、業火に包まれたシュナイダーは犬を型どった炎の化身と化する。
消火ホースから吹き出す水は出た瞬間から一瞬で水蒸気へ変わり、辺りを霧で包む。
口に咥えた劫火輪転を体内に突き立てる。
激しく火花を散らしながら進む刃先は肉を切り裂き外皮まで突き抜ける。
外にいる高橋たちの前で『四方』の根本が赤い光が火花を散らしながら外皮に沿って円を描く。
本体から切り落とされゆっくりと落ちていく『四方』の首が地響きを鳴らし横たわる。
続いて『くちばし』が口から火を吐くとすぐに首が切り落とされる。次々と口から火を吐いては首が落ちていくジラントの姿を、既に切り落とされ地面で暴れているホースなど気に止める余裕もなく、今はただただ目に焼き付ける高橋たち。
ジラントの体内を走る炎の犬は体内を満遍なく焼いていく。どこに本体があるのか分からないなら全部燃やし尽くす。そう考え頭まで焼いた後首を落としていく。
八つ全ての首が落ち、本体に赤い線が何本も入り中から炎が上がる。
目の前で巨大な蛇が切り刻まれ燃えていく様を誰しもが固唾を飲んで見守る。
そして、炎の塊が空中へ飛び出すと炎の犬が空中に凛と立ち、下でもがくジラントの体を見下ろす。
口に咥え横に向いていた炎が回る剣を縦に向けると、空中を真下へ駆け始める。火の粉を散らしながら宙を駆け下りる姿に誰しもが見とれ、ことの結末を見守る。
回転する刃先がジラントの体に突き刺さると、剣は形を変え真横に円の形を型どり大きく回転し渦をまく。高速回転する炎の渦は螺旋状に昇りつつ、全てを切り刻みながら燃やし尽くす。
遠く離れていても熱気が押し寄せ顔が熱くなり目が乾くが、それでもこの光景を目を見開いて見続ける。
大きな火柱が立ち昇り、目映い光を放つと炎の犬が弾け、中から現れたシュナイダーが焦げた大地に立つ。
まだ熱を持つ毛並みが風に揺れ煙を上げる。
魔力を使い果たし、倒れそうになるのを四つ足で踏みしめ耐えるシュナイダーのもとに、歓喜の声を上げながら自衛隊と消防隊が駆け寄るとシュナイダーを抱き抱え勝利を喜ぶのだった。
……が、
(うっ、汗くさっ……、男まみれ。ううっ、く、くるしぃぃ、う、詩……助けてくれ……)
当の本人は全然喜んでいない。
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