第115話:消えた村人を求めて

 山の道なき道を走るのは、私とエーヴァ、シュナイダーの3人。シュナイダーを先頭にし、その後ろに横並びについていく私たち。スーと白雪は少し離れて先行、後方を行き来しながら偵察している。たぶんどっかにいる。


 スマホを取りだし画面を見ると、画面は明るく生きている。電波は圏外だけど。


「警察が山の麓を封鎖してるからって、反対から山突っ切っていく作戦。作戦って言葉カッコいいけど、実際、力業の体力勝負だよね? こんなの」


「まあな。でもたまには山を走り、土を踏みしめるってのもいいじゃねえか。テンション上がるし」


 このお嬢様、前にイノシシ狩りのときに、山を走っていた私と同じこと言ってる。やだな……。


 尚美さんの情報、薄幸村はっこうそんへの道路の封鎖。土砂崩れによる孤立ということになっているが、山の麓から封鎖しており報道も制限されているらしい。

 上空からの、自衛隊のヘリによる食料支援が行われていては、いるらしいが、先見としてシュナイダーに協力してくれているカラスのぎんの情報によると、村に人影はないらしいく、武装した自衛隊が探索していたとか。


 薄幸村ルートへの包囲網を掻い潜るため、坂口さんが警察の封鎖箇所と、自衛隊ヘリの循環経路を調べ、それを元に宮西くんと2人が、山を登る最適ルートを割り出す。

 そのルートに従い、県を跨いで山の裏側へおじいちゃんの車で移動し、今に至るわけだ。


「近いな、なにか匂いが漂ってくる。それと血……古いな」


 先行するシュナイダーがそう呟いたとき、ピッ! と短い笛の音が鳴る。その音を聞いて3人とも足を止め、木の影に隠れる。

 連絡を取り合う為の笛、スーが鳴らしたものだ。短く鋭い音は待機。


 スーが先行して様子を見るということだろう。私がスマホを確認すると、付いたり消えたりしている。

 私とエーヴァは鞄から武器を取りだし、組み立てる。


 2分程度待っただろうか、スーと白雪が上から降りてくる。


「村の近くに、自衛隊の拠点があるのです。村の中を4人一組で、3チームが武装して探索中なのです」


「土砂崩れによる、道路封鎖が原因の孤立だろ? 何で村の中を探索する? しかもえらく物騒な感じだな。人影はあったのか?」


「自衛隊の人たち以外、誰もいないのです。壁や地面に血の跡はあるのですけど、死体が全く見当たらないのです。家の中は見てないので、中にあるのかもしれないのですが」


 エーヴァとスーのやり取りを聞きながら、これからの行動を考える。

 間違いなく何者かがこの村を襲い、住民は連れ去られた可能性が高い。

 その場で補食されたとかなら、何らかの痕跡は残るはず。


「エーヴァは自衛隊の拠点を正面に、シュナイダーは村の裏に回ってそれぞれ待機。私とスーで中へ侵入。

 自衛隊の人に何かあった場合、正体を隠せる私が先行する。それでも対処出来なければ各自の判断で戦闘に参加。その際、人命優先。正体がどうとかは考えなくていいってことで」


 正体といえば、シュナイダーは無理だけど、エーヴァとスーにもお面を、みたいな話にはなったけど、意外にバレないんじゃないか? って結論に至ったから私だけお面をかぶることに。


 いや、そもそも、宮西くんがスーにリアルなウサギの面を、エーヴァには、木彫りの熊っぽいお面を作ってきたことが悪い。

 ウサギなんてすぐに耳が折れてたし、熊も普通に熊で可愛くもない。それらを渡されたときの彼女らの渋い顔。


 そんな経緯を経て、一人お面をかぶる猫巫女な私は非常に目立つ。

 エーヴァの黒いワンピースドレスも、スーの着ている自称お洒落カンフー着も美心が作ったものだ。


 黒のワンピースドレスには肩と、スカートを覆う、花があしらわれたシースルーレースがお洒落に彩り、本人の希望で左足側にスリットがある。何でも足の武器を取り出しやすくしたいのだとか。

 優雅さを忘れないようにとスカートであり続けるエーヴァ。凄いのか、凄くないのか分からない。


 対してスーは。動きやすい服を注文した結果。ミニなチャイナドレスが出来たが、際どすぎて動けないと本人のNGが出て、上半身は、だぼっとしたチャイナ風のチュニック。正面のチャイナボタンと袖の模様が中華風。

 下はキュロット、突きと蹴り主体の彼女は、当たり前だがシュナイダーの反対を蹴って、下にレギンスを履くことを選択する。文字通り蹴ってだ。


 因みにシュナイダーには、スカーフをつけてみたが、私たちとの戦闘訓練の際、彼が燃えたらスカーフも燃えたのだ。

 わざとじゃないんだけど、美心にすごく怒られていたシュナイダー。あれはちょっと可愛そうだったから、さすがに庇った。その後、必要以上にすり寄ってくるのが、ウザかったけど。


 私たちは、美心の作ってくれたそれぞれの衣装を身に纏い、散開する。



 * * *



 村の中に入ると探索を開始する。私とスーで東西に別れ、手分けして一軒ずつ探っていく。自衛隊の人たちと出会わないように注意しながら探索する。

 村って言うと語弊があるけど、家は近代のものが多く綺麗な家が多い。手始めに青い屋根の家に近付き、ぐるっと周りを見ると壁の一部が破壊され、何かが侵入した形跡がある。


 壊れた壁から慎重に入り、人気のない廊下を歩く。中から玄関を見ると開かないようにしたのか、棚や荷物が乱雑に、手当たり次第積み上がっている。


 家の中のドアは外れ、物はひっくり返っている。その倒れ方は、何か大きな者が暴れ、住人を追いかけたような痕跡を感じさせる。

 尚美さんの話だとこの村が封鎖されて4日。もし人が隠れていたとしても限界に近いだろう。


 万が一の可能性もある。人の気配も探りながら家の中を探索する。


「それにしても酷い、ん?」


 寝室と思われる部屋に入ると、そこにあるクローゼットの扉は破壊されている。周囲に女性の服や鞄が散乱する場所に落ちている長い髪の毛。

 血がベットリついていて、無理矢理引っ張られちぎれたものであろうことが分かる。


 クローゼット周辺の壁が、無駄に破壊されていることに気付く。よく見ると、扉を壊す為に破壊したわけではなさそうな、まるで中で隠れている人が怯えるのを楽しんだかのような、そんな跡に見える。


「これは……」


 殴られへこんだ壁を触りながら、人間とは違う毛を見つける。金色に近い、薄茶色の毛。


 毛を見ていたとき、パーン! 一発の破裂音の後に続き、パン、パン、ターンと外から破裂音が連続で響く。


「なにこの音? 警察のと違うけど銃声? 位置的に近いか」


 私は家を飛び出て、銃声と思われる方へと向かう。

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