第113話:宇宙生物?いやいや宇宙人で合ってるっす。
シルマ自体は微動だにしないが、文字を追う目と、ページを捲る手だけが物凄いスピードで動いていく。
そんなシルマをスピカはうっとり眺めている。
スピカの視線は全く気にせずに、読み進めるシルマの頭に流れ込んでくる文字は、惑星ベストラの最後を見せてくれる。
* * *
惑星ベストラは今、滅亡の危機を迎えていた。そこに住む人によく似た生物は、生き残りを模索する。
今までも環境破壊や戦争、食料難、そんな危機もあった。だが彼らは現在の地球とは比べ物にならない科学力で、それらを乗り越えてきた。
だが今は違う。星そのもの寿命。いくら科学力があれども、星の崩壊を止めることは出来なかった。
宇宙へ逃げ、新たな移住地を見つけよう。
誰しも考える方法。だが宇宙へ飛び立つ方法はあれども、移住となると都合のいい惑星など、そうそう見つからない。
ワープや、時間移動などの技術は持ち合わせていない彼らはまず、コールドスリープによる他の惑星へ移住計画を立ち上げる。
コールドスリープ技術の確立していたこの世界では、容易く現実的な方法だった。
だが、次の問題にぶつかる。彼らは長らく滅菌された、ウイルスの驚異から離れた快適な世界に生きてきた。
故に新たな惑星に存在する、未知のウイルスに耐えられるかという問題である。
コールドスリープから目覚めたところで、未知のウイルスによって全滅するのは予見できた。
そして、その惑星に存在する狂暴な生命体、更に知的生命体が存在した場合の対抗手段。
自分達以上の科学力、兵器の保有、未知の生物の狂暴性……余りも多い課題と少ない時間。
それはある人物の発言から始まった。
「今の姿である必要は、ないのではないか」
この言葉の意味するところ、今の外見を捨て、元ベストラ人として、新たな生命として生きていくこと。
未知のウイルス、生物に対抗するためには、その星の息づく生物になってしまえばいい。
寄生である。
ベストラ人は自らの種の痕跡を残す為、自身のゲノムパターンを持ち、他の生物に寄生し、書き換え支配、なおかつ生存競争に負けないように、元の生物より強くある為の研究。
今までは、国同士がいがみ合い争っていたが、この局面に世界は一つとなり、研究は急速に進む。
元々この星に生存する、寄生生物に自分達のゲノムパターンを植え付け、他の生物を支配する実験が行われる。
まずは犯罪者から。彼らを解体し寄生生物と相性のいい最適なパーツを探す。
人からゲノムを取り出すため行われるそれは、人体実験であり、そこに倫理や人権は存在しない。
この惑星消滅の現状において、もはやそんなことをいう人は少なく、言われたところで止める人もいなかった。
世界が一つになり、程なくして成功したそれは、生物の体に侵入し相手の細胞を取り込み、情報を書き換えながら、新たな生命体へと進化することが可能となる。
──エールピエスα……体内に侵入しその肉体を大幅に強化、肥大させるタイプ。
もっともスタンダードで環境への適応力も高い。だが繁殖力が弱く個として存在するには問題ないが、種の繁栄が困難。
──エールピエスβ……体内に侵入し中で分裂、増殖。体外へ出て新たに寄生するタイプ。
元の生物に依存した環境下においては問題なく適応できる。
自身を分裂させることで種の拡大を図る。ただ、最初の宿主から派生した分裂体は、宿主からの電磁波を受け生命の維持、指令の伝達を行う為、集団から一定の距離を離れたり、最初の宿主が死んだ場合は、全てが生命活動を維持できなくなる。
──エールピエスγ……他の生物を解析、模写、形成するタイプ。
小型生物に対応したタイプ。自身より小さな小型生物を補食し、生体パターンを解析。
その素材を大量に取り込むことにより、繭を形成し素材を元に生体を複製。元の生物を元にして作るため雄、雌の複製に成功した場合、繁殖が可能。ただし元の寄生体の分裂による自身による繁殖は不可。
繁殖に適したタイプだが、個体の強化は最も弱く生存競争に難あり。
この3タイプの寄生生物の生成が確立されると、ベストラ人の優秀な者を初めとし、希望者たちを募り、一般人も裕福層から多くの人が寄生生物へと生まれ変わっていく。
もちろん星と共に死を選ぶ人、選ばざる得なかった人の方が圧倒的に多かったが。
当初予定のコールドスリープと違い、寄生生物はコンパクトで収納も容易く、生命の維持も最低限で済む。宇宙船も小型化し準備は着々と進む。
──訪れる星の最後。
それはどの科学者が予想したよりも早く、突然であった。
地は裂け、海は荒れ、山々からは赤い火柱が立ち昇り、赤く燃える雨を降らせる。空は雨と雷が地に落、暴風が吹き荒れる。
地上の人々はなす統べなく、飲み込まれていく。生き残った人も最後は星の消滅に飲み込まれ全てが無へ帰していく。
用意された宇宙船は全部で76隻。大・中・小の宇宙船には、一つに300~1000の寄生生物が搭載されていた。
突然の崩壊だが、予兆を感じて緊急発進が行われる。
53隻は飛び立てた。23隻は飛び立つことも出来ずに星と共に沈んでいく。
飛び立てたが、大気圏を抜けれなかった船が、11隻落ちていく。
宇宙へ飛び立った42隻の船はベストラ人の希望をのせ、無限の宇宙を漂う。
長い時間の中、機械の不調や、事故によって、次々に離脱していく船。
そして今は大・中・小の3隻が漂うだけになっていた。
どれ程の時間がたったかは分からない。偶然一つの星に生命反応を捉える。
大型と中型の船が星への移住計画を試みる。小型の船は計画に参加することは出来ず飛び立つ。
大型船と中型船は、ベストラ人の中でも優秀な人をベースとした寄生生物が乗っており、小型船には初期の実験で生成された犯罪者の寄生生物が乗っていた。
これらが同じ星に降りれないようにプログラムされており、小型船は宇宙の旅を継続することを余儀なくされた。
大型船たちがその後がどうなったかは分からないが、小型船は長い旅の果て青い星へとたどり着く。
生命溢れる星は、かつての惑星ベストラより資源豊かで、魅力に溢れていた。
宇宙船のAIが笑ったかは知らない、でも無人の船内に久しく響く声は、少し歓喜が含まれていたように聞こえた。
「「これより、惑星
* * *
シルマがパタンっと本を閉じる。床には2冊の本が積み上がっていることから、全て読み終えているようだ。
「ふぅ~、これは、なかなかっすね。何が悪い、というわけでもないっすね……」
「もう読み終わったの? もうちょっと読んでてもいいのよ」
スピカが残念そうに言う。
「スピカ、ありがとうっす。今度パフェでもおごるっす」
「ふわぁぁぁぁ!? ほ、ほんと!? 今の本当よね。シルマとパフェ……えへへへへっ、ってう、嬉しくないわよ! あんたが甘いもの好きだから付き合うだけだから!」
一人でノリツッコミしているスピカは無視して、シルマは考える。
(よりによって、惑星適応実験用に置いてあった、犯罪者集団の寄生体が最後まで生き残るとは皮肉なものっす。
情報の照らし合わせをするに、あまり役に立つ情報は無さそうっすね。たどり着いた船に乗っていた寄生生物が、300体ってことくらいっすか……あの子たちなら問題なさそうな気がするっすね)
シルマは天を仰ぎ、神託をする前の様子を思い浮かべる。
* * *
宇宙に浮かぶ宇宙船のすぐ近くを地球の衛星が通る。それでも感知されることなのない宇宙船。
その船内では今後の計画が、計算により導きだされたいた。
──下級体投下数200
──113……適合出来ず死滅。内21は巨大生体を取り込めず、反対に取り込まれ消滅。
──47……同種、天敵種による自然淘汰。
──8……知的生命体の兵器攻撃により死滅。
──15……知的生命体、希少種の攻撃により死滅。
──5……生体反応確認。内3微弱。
──12……投下時ロスト。
──継続、撤退……生命反応のある惑星へ辿り着く確立……限りなく0% 選択、継続……優先事項、希少種の殲滅……中級体投入。集団形成、生命の合成実験を開始。希少種への対抗手段とする。
尚、船から生体反応確認は可能……生体からの通信は困難。故、リーダーの選出を提示、エールピエス、パターン……集団形成、最適種選出。
無機質な声は冷たく船内に響く。
それからしばらくして、宇宙船から地球へ向け光が落ちる。
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