第100話:前世ぶりにあった仲間は別人だった

 エーヴァが振り回すのはバス停の標識である。それは移動可能でベースに重りがある、その重りでウージャスの頭を殴り地面に転がすと上からシュナイダーが降りてきて炎をあげ燃やし尽くす。


「切りがねえな、いったい何匹いるんだコイツら?」


「全くだ、親玉を探して潰すしかないんだろうがこうも多いとな。こいつら臭いせいで匂いも特定できん」


「無限ってわけじゃあねえだろうから1匹ずつ潰していくか」


「いやゴキブリは意外に無限に湧いてくるぞ」


「まじかよ。本当に最悪だな。よっと」


 エーヴァがバス停を振り1匹のウージャスを壁と挟んで押し潰すとシュナイダーがそいつを燃やして止めをさす。

 そんな2人の元に集まってくるウージャスの群れ。彼らの動きは人を無差別に襲うのではなく確実に敵と認知した3人を捉え向かっている。一つの意思に従う統一された動きによって途中人を見つけても目もくれず向かうことで町の犠牲者は格段に減っている。

 ウージャスの群れは詩たちの予想以上の数でも哲夫、坂口、尚美や一般人が無事に逃げられているこの状況はある意味、詩たちのお陰といってもいいかも知れない。


 そして1人敵として認知されることなく確実にウージャスを抹殺していく思月は今激しく困惑している。

 ビルの陰から覗いて目の前にいる日本の女子高生の制服姿を着る銀髪の少女が豪快にバス停を振り回し、その小さな外見からは想像もつかないデタラメなパワーと愛らしい顔の口から発せられているとは思えない言葉遣い。


【な、なんなのあれ? 魔力量むちゃくちゃ! 今晩バス停に押し潰される夢見ちゃいそうなレベルよあれ】


 同じく陰から覗く白雪がエーヴァを見てふぁさふぁさと体を小刻みに揺らし震えている。


「た、多分あの暴力的な魔力の感じからイリーナだとは思うのですがあの姿は全くの別人なのです」


【元がなんであれあの子がエーヴァとかいう子ならこれを渡して逃げるのよ】


「なんで逃げるのです」


 2人が言い合いながら向かい合ったときだった。物凄い勢いで思月と白雪の方目掛けバス停が飛んでくると建物の壁を大きく抉り破片が弾け散る。砕ける破片と衝撃のなかバス停はバウンドして地面に転がる。


 刹那思月と白雪互いと反対方向に飛び退くと上空からエーヴァが拳を振り上げ突っ込んでくるとその拳を振り下ろし地面に叩きつける。

 地面が割れるなんてことはないがエーヴァを中心に広がる衝撃波を壁を掛け上がり避ける思月と白雪。

 思月は避けてそのまま後ろに下がるが、白雪はエーヴァを蹴りにいってしまう。その足はあっさり捕まれると勢いよく放り投げられる。

 投げられた白雪はボスっと音を立て壁にぶつかってしまう。


「あん? 人間? 1匹違うな? なんだおまえらさっきからこそこそと」


 殺気を放つエーヴァに臆することなく見つめる思月が静かに口を開く。


「あなたがエーヴァであっているのですか?」


「ああそうだが、なんであたしの名前を知っている?」


 白雪が落とした鞄を拾って怯えながらソロリソロリとエーヴァへ歩み寄り差し出すと警戒した様子ながらも鞄を受けとるエーヴァ。

 中を覗くと驚いた表情で中身を取り出しその取り出した物と思月を交互に見る。


「これは詩のじいさんが作ってたやつじゃねえか。なんでお前が?」


「そのおじいさんに頼まれて持ってきたのです。詩とエーヴァに渡して欲しいと言われたのです」


「ふ~ん」


 まだ信用していないそんな雰囲気をわざとらしく漂わせながらエーヴァは思月をじっと見る。


「それよりも聞きたいことがあるのです。昔イリーナとか呼ばれてたりとかないのです?」


 自信なさげに尋ねる思月に驚いた表情をするエーヴァ。


「自己紹介がまだだったのです。スーは思月、あの子は白雪なのです。え~とスーは昔はマティアスと呼ばれてて……」


「は? マティアス? いや……え? お前女だよな? マティアスって男だろ?」


「はい、今は女なのですってうひゃあわわ!」


「エーヴァ間違いない、この子は女の子だ。しかも特上だ!」


 ベロリンと舌で思月の手を舐めたシュナイダーがキリッとした表情で答える。その表情だけを見れば麻薬捜査で犯罪を未然に防いだ、そんな立派な犬に見えるかもしれない。

 だが舌舐りをしながらハァハァいうその姿の本性を知るものからはただの変態にしか見えない。エーヴァの冷たい目線をものともせず誉めてくださいよ、撫でてくださいよと期待に満ちた瞳で見つめ尻尾を振るシュナイダーは強者といえるだろう。


「なんなのですこの犬は!? 喋るのはともかく視線が気持ち悪いのです」


 手を嫌そうに振りながら思月が文句をいうがそんなことで臆するシュナイダーではない。


「お嬢さんわたくしの名前はシュナイダーと申します。僭越ながらお嬢さんの味を堪能させて頂きました。大変美味なそのお味、聞けば前世では男だとか。ですが安心してくださいわたくしそのような些細なことを気にする小さな男ではありません。大切なのは今です! お嬢さんの味に運命を感じました! 好きです!」


 キリッとしたシュナイダーの顔に対し絶望の表情を浮かべる思月。そんなことは関係なく舌を出しキラキラとした目で「おかわり」シュナイダーの言葉で言えば「もう一舐め」させてくれと期待に満ちた表情を浮かべる。


「がーーんなのです。生まれて13年、初めて告白された相手が犬なのです。最悪なのです……しかも味に運命を感じらるのって終わってるのです」


 絶望的状況に膝をつく思月の背中を白雪が擦る。


「色々聞きたいことはあるが今はあいつらを潰すのが先だ。せっかくじいさんの作ってくれた得物だ。さっそく使わせてもらうぜ」


 再びその姿を表したウージャスの群れを見て不適に笑うエーヴァが鞄から取り出すのは2本の鉄の棒と弧を描く何かを2枚の板が挟む物体。


「さ~て、全部砕いてやる! こいよ!!」


 エーヴァが向かってくるーウージャスたちを睨むその表情は高揚とし天使と悪魔のどちらとも取れる笑顔であった。

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