第80話:現世の鍛冶師
工房に入ってくるなり「武器を作ろう」そんな犯罪者バリバリなことを提案してくるおじいちゃん。
「あの、その気持ちは嬉しいけど、流石に武器を作るのはおじいちゃんが器用とはいえ無理じゃないかな?」
「まあ鍛冶師ではないからのう。刀を打ったりみたいなことは出来んわい。でものう、鉄の加工は出来る。
この間、聞いた話だと詩は物体を変化させることが出来るわけじゃろ? なら尖らせたり研いだりする必要もないし、なんとなくイメージもある。エーヴァちゃんの方はそうじゃの大きな剣は流石に作れんし作れたとしても警察にお世話になるのが落ちじゃ。だからの……」
と言いながら何やら図面を広げるおじいちゃん。なんか凄くやる気じゃない?
「この間の事件のせいで工場の生産も激減じゃし、徹夜で考えたわい!」
楽しそうに言うおじいちゃん。なんでこう物を作る人って夢中になったら徹夜したがるんだろ。これは前世も今世も変わらない現象である気がする。そのおじいちゃんが広げる図面に目をやる。
ほう、これは……なるほど私の武器に関しては武器にはない発想。武器が当たり前にある世界じゃないからこそ出来る発想かも。
エーヴァのは物騒である。こっちは刃があるからそれを隠す為に考えているというわけか。
「おじいさま、こんなのは作れるかしら?」
エーヴァがなんか棒状の手裏剣みたいな絵を描いているが、あれはアウトじゃないかな? そのまま美心も呼んで3人で話し始める。
その間、図面を見る私はふと気になったことを尋ねる。
「ねえおじいちゃん、なんで協力してくれるの? ものすごく怒って反対するかと思ったんだけど」
おじいちゃんがエーヴァたちの話の途中だが、私へ気を向けてくれる。
「本音を言えば反対じゃ。詩が傷つくなんてわしは耐えれん。でもの、この間わしはあのゴキブリに襲われたとき、わしは為す術なく逃げるだけじゃった。わしの知り合いにも、飲み屋街、警察も犠牲が出ておる」
おじいちゃんが口髭を触り、ちょっと複雑な表情を見せる。
「つまりじゃ、あのとき対抗出来たのは詩とエーヴァちゃん、シュナイダーだけじゃろ。わしがどんなに反対して止めても、詩たちは戦うのじゃろうし、皆も詩たちを頼らざる得なくなる。
ならばじゃ、反対して詩の足を引っ張るくらいなら協力して、無事に帰ってきてもらおうと、そう思ったわけじゃ。
それでもまあ、詩たちが怪我したら後悔はするじゃろうがの」
そんなおじいちゃんの言葉にじーん、としてしまう。戦っているうちにどこかでパパやママにバレるかもっていうのは心の隅にあった。バレたときになんとかすれば良いやって思ってたけど、そのときが正直怖かった。
前世の話をして、今の力を見せたらお母さんたちに、自分の子供じゃないって言われそうで。
でも、おじいちゃんは私を詩として認めてくれた。詩として心配してくれることがとても嬉しい。
「おじいちゃん……ありがとう」
ちょっぴり涙ぐむ私におじいちゃんは、優しい笑顔を向けてくれる。
「
この感動的な雰囲気にワンちゃんが割り込んでくる。変態だけど、もっと空気を読めると思っていたのだが。
なんかいつになくソワソワして落ち着きのないシュナイダーは、おじちゃんの足元に来ると、なにやら目で訴えてくる。工房の端の方に歩きながら宮西くんを呼ぶ。
「宮西、お前もこい!」
集まった男3人が、部屋の隅でなにやらこそこそ話している。
「あいつらなにしてんだ?」
「さあ? シュナイダーが中心な時点でろくなことはないと思うよ」
「私もそう思う。折角、詩のおじいちゃんと感動的な話で盛り上がっていたところだったのに、なんか冷めたね」
私たち女3人は男たちを見るが、なんか変な空気を放っているので、近寄らないことにする。
まあ、こそこそしているけど見えてんだよね。人間の女性の写真集と犬の写真集。犬は白い毛の艶々な毛並みの瞳のキラキラしたワンちゃん。『ついにグラニテちゃんの写真集がでた! 可愛いさワンダフル!!』とか書いてある。
でぇ、人間の方は『二階堂 りん写真集 第3段!! 今度は水着多めでお届けしちゃう!』と……
視線を感じたのであろう、男3人がこっちを見るので冷ややかな視線を送ってあげると、慌てて目を反らす。
大方シュナイダーが頼んだのだろうけど、まったく何を考えているんだか。そしておじいちゃんがメジャーを取りだし部屋の隅の寸法を計り手で四角のジェスチャーをしている。
あんまり真剣に聞き取っていないけど、「工房の中にオレ専用の小屋を建ててくれ、本棚つきでな!」とか言っている。
感動的な話からいっきに、どうでもいい話へと流れてしまった。もっと武器のこととか大事なことが、あったんじゃないのか? まっ、堅苦しくなくていいのかもしれない。
自己紹介も実にシンプルだったし。一緒にいればそのうち分かるさって感じでだ。現にみんなが入れ替わり立ち代わり話をしているし。
少し日が傾き始めたころ、私たちは外に出る。空を見上げると西に沈もうとする太陽に対し、東には真ん丸な月がうっすらとその姿を現し存在感を放ち、夜の訪れを告げている。
今日は満月だっけ? 真ん丸な月にそんなことを思いながら、それぞれが帰路につくのだった。
* * *
「今宵は、満月なのです」
【そうだねぇ】
金色の瞳と黒いボタンに満月を映し、窓辺で寄り添う少女とウサギは静かに月明かりに照らされる。
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