第67話:お話は聞かせて頂きました。わたくしこういう者です
「詩、わたくしと勝負していただけませんか? そしてあなたを地獄へ落として差し上げますわ」
可愛いく微笑む少女から、地獄へ落としてやると言われる私。
なんか丁寧に落としてくれそうだな、とか思いながらエーヴァちゃんから膨れ上がる魔力を感じ、ホトホト困る。
なんなんだこの子は? なんで私は彼女と勝負しなければならないんだ? この子から感じる魔力からして、前世絡みだろうことは推測出来るが誰なんだこの人?
困惑する私を救ってくれるのは、我が親友、美心。
「エーヴァちゃん、ちょっといい?」
思わぬ方向から声をかけられて、驚くエーヴァちゃん。
「な、なにかしら? 失礼だけどもあなた、お名前は?」
「私は米口美心、美心でいいよ」
「では、美心なにかしら? 今わたしくしは詩とお話し、しているのだけれども」
「それよ、それ! 詩と普通の会話をするのは全然オッケー。でもさ、なんか地獄に落とすとか言ってたよね?」
美心の言葉にこくこくと頷くエーヴァちゃん。なにやっても可愛いって羨ましい。
「それ困るんだよね。詩のマネージャーである私を通してくれないとさ」
「マ、マネージャー!? そ、そうでしたのあなたが……考えてみればそうですわね。わたくしにもアラという付き人がいますし、日本における生活様式においても付き人がいて当然ですわ」
エーヴァちゃんはひとしきり驚き、納得した後、美心の方を向くと立ち上がり優雅にお辞儀をする。
「では改めて美心。わたくしが詩と戦う許可を頂きたいのですが、よろしいかしら?」
「ダメ」
「な、なぜですの?」
美心が反対するとは思っていなかったのだろう結構焦ってる。必死な顔も可愛い。
「まずは自己紹介。私と宮西は詩のことを知っている。でもエーヴァちゃんのことはよく知らない。
エーヴァちゃんは詩の命を狙ってきたって訳じゃないんでしょ」
エーヴァちゃんが人差し指を頬にあて悩み始める。可愛い過ぎでしょ。
やがて首を縦に振るとボソッと一言。
「決着がつけれればいいですわ」
「命を狙うなら問答無用でくるもんね。そうじゃないってことは、エーヴァちゃんは詩と決着をつけたいってことでオッケー?」
激しく頷くエーヴァちゃん。
「じゃあまずは自己紹介から、その話ぶりから詩と同じ境遇の人だよね。
じゃあ前世ネーム名乗ってみようか。そうだねぇ、こう転生ぶりの再開なわけだから感動的にお願いしたいな」
世の中とは得てして、タイミングが悪いのか良いのか分からないものである。
エーヴァちゃんが名乗ろうとしたとき、私は立ち上がりある方角を睨む。そして少し遅れて私が睨んだ方角から響く破裂音に、周りの人たちもそっちに注目する。
「魔力……こいつは誰のだ?」
そんななか、ニタァっと笑いポツリと呟くエーヴァ……ちゃん?
「詩、この魔力はあなたのお仲間かしら? だとすれば、何者かと交戦中ということですわよね?」
一瞬何か違うものが見えた気がしたけど、黙って頷く私を見て微笑むエーヴァちゃん。
「美心、ここで今からわたくしと戦えと言っても詩は行くのでしょう?
それでしたら、わたくしがお手伝いしますわ。そしてそのまま名前を明かして戦うという流れはいかがかしら? この流れはあなたのいう感動的な演出に、欠かせないものとなるのだけれども。きっと詩も喜んでくれると思いますわ」
エーヴァちゃんの提案に少しだけ考えた後、手をポンッと叩く美心。
嫌な予感しかしない。
「感動の再会も良いけど、演出ありきのサプライズもありか。良いよエーヴァちゃん」
「決まりですわね! 詩、行きますわよ」
「えぇ!? 勝手に決めないでよ」
エーヴァちゃんと勝手に話を進める美心に文句を言う私だが、
「よく考えてよ。前世から詩を求めてきた訳だよ。そこまでして戦いたいんだから、応えてあげたら?」
「むううっ」
これってさ美心がエーヴァちゃんを制御したようにみえて、エーヴァちゃんも美心を上手く誘導したってことじゃない? なんかエーヴァちゃん勝ち誇った顔してるし。
「エーヴァちゃんはシルマに言われてここにきたの?」
エーヴァちゃんが頷くので話を続ける。
「じゃあ勝負受けるから、この戦いが終わっても手伝ってよ」
「勝負受けくれるの!? 本当にか!? や、やったああ! テンション上がるわあ!!」
両頬を押さえ顔をほんのりピンクに染め、ぴょんぴょん飛んで喜びを全身で表現するエーヴァちゃん。
所々言葉遣いがおかしい気がしないでもないが、まあ可愛いから良しとしよう。で、本当に勝負を受けて良いのか私?
「じゃあいきますわよ!」
「ちょ、ちょっと待って」
私の手を取って屋上庭園から飛び降りようとするので慌てて止める。
一瞬キョトンとした顔で私を見つめるが、すぐに華咲き誇る笑顔を見せると、エーヴァちゃんは自分の鞄を手に取り私の手を引き走り始める。
屋上庭園を抜け、廊下を猛スピードで走る私たちにすれ違う人が驚くのを横目にする。見た目からは想像もつかないスピードで走るエーヴァちゃん、私が身体強化をして走るぐらいだから結構速い。
既に手は離しているけど、物凄くご機嫌なエーヴァちゃんの後ろをついていく私は、彼女の雰囲気になんとなく懐かしさを感じてしまう。
う~ん、でもこんな子、知り合いにいたっけな?
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