勇者の記憶

第50話:5星勇者

 ──この世界を混沌なる闇が覆うとき

 ──空から五つの星が落ちてきて

 ──闇を払い根源たる魔王を打ち倒す

 ──その星は5星勇者と呼ばれ人々をその光で照らし導く


 エウロパの国に古くから伝わる神話。子供に聞かせる為分かりやすくした書物もありそれを寝る前に読み聞かせる家庭が多い。


「──はいおしまい。もう寝なさい」


「ねえお母さん。5星勇者様って本当にいたんだよね」


 布団から顔を覗かせる男の子はベットの側にある椅子に座る母親に話しかける。


「ええ本当にいたのよ。200年も前のお話だけどね」


「ひいおじいちゃんは見たことあるんだよね? 凄く強かったんだよね?」


 興奮して寝付きそうにない息子を見て諦めたようなため息をつき本をパタンと閉じると膝に置く。


「ちょっとだけお話してあげるからちゃんと布団に入りなさい」


「はーい」


 男の子が返事をして布団をかぶると母親は優しく語りだす。



 * * *



『エッセル・ブッケル』……炎を操り敵を焼き払う。赤髪の爽やかな男で屈託のない性格で老若男女問わず好かれる性格で頭もキレる。そのカリスマ性もあって5星勇者のリーダー的役割を果たす。

『灼熱のエッセル』と呼ばれており剣と盾を扱う。


『マティアス・ボイエット』……風を操り敵を切り裂くクールな黒髪の男。隠密的な身のこなしをして音もなく敵を殲滅していく。寡黙で美男子なことから女性人気が高い。戦闘力はエッセルに次ぐ実力者。

『疾風のマティアス』と呼ばれていて短剣を使用する。


『スティーグ・ハリトノフ』……大地を操り皆を守る聡明な茶色い髪の男。背は高く細身ではあるが大地を操り皆の盾役をこなすのと同時に作戦の立案や国民の救助なども行う。仲間からの信頼は厚く皆を影から支える。

『知略のスティーグ』と呼ばれており拳にナックルを装備して戦う。


『リベカ・シペトリア』……青い髪の女性で水を操り敵を華麗に葬っていく。水を操り流れる様に舞う姿に男性ファンは多い。

 教会のシスターをやっていた経歴があり日頃から穏やかで慈愛に満ちており分け隔てなく救いの手を差しのべる。

『流水のリベカ』と呼ばれこんを使用する。


『イリーナ・ヴェベール』……オレンジの髪にスティーグに次ぐ身長と鋼の肉体を持つ女性。身の丈もある大きな剣を使い空気の振動に魔力を乗せることが出来て斬撃で起きた衝撃波に魔力を乗せ多段攻撃を繰り出し敵を粉砕する。

『音撃のイリーナ』と呼ばれ大剣を使用する。


 彼ら5人を神話になぞらえ5星勇者と人は呼ぶ。これの影にはスティーグの策略があったともいう噂もあるが彼らの実力は本物であったことが大きいのは言うまでもない。

 剣を振れば数千の魔物が塵となり傷一つくことなく敵を倒していく。そう言い伝えられている彼らの本当の姿を知るものはもういない。



 * * *



 森から出た広野に2人の人影と多くの獣の群れが見える。


 燃え盛る剣は狼の魔物を切り裂く。ドサッと落ちる首を見る暇などなく次の狼の頭をはねる。その隣で血にまみれた棍が周囲の敵を吹き飛ばし空間を作り出すとその中心にいた女性は棍を構え呪文を唱え出す。


「我の力の源たる水よ、我の声を聞き、我に力を貸したまえ『メイルストロム』!!」


 棍を地面に突き立てるとそこを中心に水の渦が発生し狼の魔物を飲み込むと渦の勢いで磨り潰していく。

 一気に100体近くの魔物が消えていく。怯む狼の魔物に空から落ちてくる人物から巨大な大剣が振り下ろされる。


「消えやがれえぇ!! 『スフォルツァート』!!」


 振り下ろされた大剣に数体の魔物が潰されそこから衝撃波が広がり周囲の魔物を押し潰し絶命させていく。


「イリーナ! あっちの状況はどうなんだ?」


「聞きたいかエッセル?」


 剣を納めたエッセルが大剣を地面に突き立てるイリーナの不服そうな顔を見て一瞬だけ躊躇した表情を見せるが唇を噛み決意した目でイリーナを見る。


「ああ俺は聞かなければいけない。教えてくれ」


「ふん、真面目だなお前はいつか耐えれなくなるぞ。リベカお前も聞くのか?」


 イリーナが青い髪の女性に視線を移し声をかける。


「ええ、わたくしも5星勇者の一人として聞く義務があります」


 真剣な眼差しで見てくるリベカを見てイリーナはため息をつく。


「おまえら真面目すぎるだろ。まあいい、結論から言えば町の東側は全滅だ。誰一人生き残ってない」


「誰一人? 魔王軍の攻撃が照明弾魔法によって報されたのが2時間前だぞ。逃げ隠れすれば一人ぐらいは……」


「ああ言い忘れてたな、人間だけでなく家畜もペットも虫すら生き残ってないぞ」


 イリーナの言葉にリベカが恐る恐る口を開く。


「まさか毒魔法ですか……でもあれは範囲が極端に低いはず」


「スティーグが今調べているが町を囲うように結界を張った跡があるってことだ。つまり町の東側を結界で覆い逃げ場を失くした上で大量の毒を注入したってとこだ。でだ、その毒の発生源としてドラゴン種に似た足跡が確認できた。恐らく毒を使う新たな魔物を生み出したってとこじゃないかってことだ」


 イリーナの話を黙って聞いていたエッセルが口を開く。


「新種と簡単に言うがどこからわいてくるんだ? 魔物を合成するとかいうがそんな簡単に」


「エッセル、今は魔物の生まれの秘密を解き明かすときじゃないわ。そのドラゴン種の魔物を討つべきよ」


「だな、いいこというじゃんかよリベカ。もう一つ伝えとくぞ町の人は皆死んでいたがその殆どが体の一部が溶けていた。皮膚から内部に侵食していく毒じゃないかってスティーグが言っていたな」


「なおさらそいつをほっておけないな。行こうかそいつを倒しに」


 エッセルが町へ向け歩き出しそれにイリーナとリベカがついていく。

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