第37話:衣装はどれにいたします?

 胸を押さえ身を引く私にちょっとこの現状についていけない表情の美心が心配そうに声をかけてくれる。


「詩、どうしたの? 若干涙目だけど」


 私は悔しさに耐えきれず美心の胸に飛び込み想いをぶちまける。


「あ、あいつ変態なの。あいつ私の胸感触が心地いいとか言われて物凄い屈辱受けたの! 酷いんだよ!」


「よしよし、怖かったねぇ」


 私の頭を撫でてくれる美心は私の頭をポンポンと叩いて任せてくれと言わんばかりにシュナイダーの元に近付いていく。


 シュナイダーの側でしゃがんで頭を撫でるとシュナイダーは嬉しそうにへっへと変態の息遣いをする。


「あなたのお名前は? 詩と一緒に戦っているんでしょ? 言葉話せるって聞いたけど」


 優しく語りかけられた内容に驚いたのか目を見開くシュナイダーが私を見てくるので頷くとなんかキリッとした表情になりいつもより低い声で話し出す。


「可愛いお嬢さん、私の名はシュナイダー。よろしければお名前をお聞かせ頂けませんか?」


 犬が喋ったことに目を丸くする美心だが少し嬉しそうな表情をする。


「私の名前は米口よねぐち美心みこよろしくね」


「おぉ! なんて美しい名前!? その響きだけで私の過酷な戦いで疲れきった心をも癒してくれるようです。私の活躍、耳に届いているかも知れませんがいかに屈強な私でも日々の戦いに身も心も磨り減らしております。

 僭越せんえつながら少しペロリと舐めさせて頂けますか? 顔とは言いませんまずは手から、親密になれば足とかも。それだけで私は明日からも戦えることが出来ます」


 キリッとした顔で舌を出すシュナイダーの下顎をガシッと掴む美心。


「シュナイダーさん、良い毛並みしてますね」


 美心がうっとりしながらシュナイダーの毛並みに触れる。


「赤くて日に照らされると燃えるような煌めきを見せてくれる。本当に良い素材」


「お、おじょうさん?」


 下顎をもたれ喋りにくそうなシュナイダーに焦りの色が見える。


「ああ毛皮は色々と問題がありますし私は扱うことが出来ません。でもこの毛は刈って使えないかなぁ。今、詩の衣装を決めようって考えているんですけどこの毛使ってみようかなって」


「え、ええ!? あの……」


 しどろもどろになるシュナイダー。美心なんか凄い! 変態もタジタジだ! でも冷静に見て犬の毛を刈り取ろうとしてうっとり微笑む美心も若干危ない人見える!?


「あ、尻尾の毛なんて良いですね! う~ん良い素材♪」


「あの……お嬢さん?」


 美心に尻尾を掴まれ耳をペタンと倒し怯えるシュナイダー。


「ねえ詩。シュナイダーの毛刈っていい?」


「うんいいよ。オッケー」


「か、軽く許可を出すな! ちょっ、ちょっとお待ちっ、お嬢さん待って! 尻尾引っ張らないで。ごめんなさいってあいたたたたっ!」


 おぉぉぉぉ!! あの変態犬シュナイダーが完全に美心に負かされている。凄いぞ美心!


 ボロボロになったシュナイダーを置いて私たちは家に入る。

 そして広げれる洋服のデッサンの紙を取っては吟味し「気に入った」「今は分からない」「これはない」の三種類に振り分けていく。


 美心は裁縫も上手いけど絵も上手い。どれも可愛いか綺麗で正直迷う。今振り分けている中で「これはない」に入れているのはセクシー過ぎるからだ。けしからん布面積に苦言をいうと「詩は似合うと思うんだけどなぁ」とかいう答えが返ってくる。


「いやこれとか服なの? 痴女じゃん」


 最低限隠すとこだけ隠しているデザインに文句を言うが美心はちょっと納得していない様な表情をする。


「う~んだってさ、詩って血を流して戦うわけじゃん。ならどっからでも血を噴き出せるように布の面積を少なくしたデザインなんだけどなあ」


 うっ……たしかに前世はそんな理由から割りと露出していた。一族の女性はみんなそんな格好だったから気にもしていなかったけど今考えると物凄~く恥ずかしいんだ。


「あのね美心。私も恥ずかしいし何より逆に目立つからもっと落ち着いたデザインの方がいいと思うんだ」


 美心を刺激しないように遠回しに否定すると美心が真剣に考えだす。


「まあ確かに一理ある。もっと目立たない、でも個性的なデザイン……」


 真剣モードに入った美心が自らデッサンを振り分け始めると数枚私に渡してくる。

 それらを見ると……


「なんで制服というかアイドルっぽい衣装なの?」


「日本における女子の制服ってある意味完成されたデザイン。それでありながら個性を出しつつ統一性も出せる奇跡の洋服だと思うの。

 つまり詩の可愛さを引き出しながら尚且つ制服ということで目立たない。どう?」


 凄く真剣に私に「どう?」って聞いてくるけどそういわれてもなぁ。再び視線をデッサンに移して最適解を探す。

 美心が考えたのだろう何度も線を引き直して描かれたデッサン。正直どれも可愛いし捨てがたい。


「ねえ美心。なんで白を基調としたデザインが多いの?」


 デッサンを見てて凄く不思議に思ったことを聞いてみる。前世だと血が目立たないように黒を基調とした服が多かった。


「詩って血を流すんでしょ。なら白の方が綺麗に映えるかなって思ったんだけど」


「な、なんですと!? そんなこと考えたことなかった」


 驚く私を置いて美心がぶつぶつ言いながら紙にデッサンを始める。

 5分もかからず描き終えたそれは和風で上の白衣には赤い結紐が袖や襟に模様としてあしらわれ、赤い袴……ではなく若干フワッとした朱色のスカートに白いニーソックスと草履。

 袴紐が後ろで小さく可愛いリボンを作り存在を主張する。


 それに千早もあり薄く透き通り下地が見えると書いてある。これに赤い結紐が前を留め下地の赤と重ならない様に配置されるらしい。


「ねえこれさ、巫女さんのコスプレじゃぁ……」


「そう! 巫女さんベースで考えてみたの!

 だってさ自分の血を流しながら戦うってカッコいいじゃん! 神々しいじゃん! 絶対似合うって! ってどうした詩!?」


「だって、だってみんな私のこと血まみれとか鉄臭いとか、ホラーって……神々しいとかカッコいいとか初めていわれたんだよぉぉぉ」


「おぉヨシヨシ、泣くな詩。頑張った、頑張った」


 私を抱きしめてくれる美心の胸で嬉しくて泣いちゃうのです。












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