新たな衣装と忍び寄るメガネ

第36話:親友は変態と出会う

 私の前に積み上げられているファイル。中にはルーズリーフに洋服のスケッチが描いてある。

 デザインが和洋中揃っているのは恐ろしい。そして目の前の親友が目の下に隈を作って私に感想を求めてくるのはもっと恐ろしい。

 髪が軋んだ感じなのに肌が微妙にテカテカしているのは不摂生な生活、いわゆる徹夜をしたに違いない。


「美心、大丈夫? 寝た方が良いんじゃない?」


「大丈夫っ!! それよりどう? 正直どれも詩に似合うと思うんだぁ~ああぁぁもうたまらんですねえ~」


「あれ? あれ? 普段美心そんな喋り方してないよね。ちょっと寝ようね、お昼休み後20分だけどさ少し寝たほうが良いよ」


 キャラ変した親友を揺さぶるとガシッと両肩を握って目が据わった顔を近付けてくる。こ、こわい……


「それよか教えてくんないかなぁ? えぇ? 詩さんよぉ」


 最早誰だよって突っ込みたくなる親友の腕を握り必死で抵抗する。うぅなんか美心がゾンビみたいに迫ってくるのが怖い。


「美心、ちょっと冷静に聞いてくれる?」


「ん? なに?」


 ちょっと声のトーンを落として真剣さを演出した上で大事な話があるんだよって雰囲気を醸し出す。

 その作戦が功を奏したのか美心が人間に戻る。


「いい、美心。私が戦っているのは2人の秘密。パパやママも知らないんだから」


 美心と肩を寄せてこそこそ話すと、ちょっと鼻息荒く美心が頷く。


「この衣装もバレたら意味ないから帰り私の家に来てよ。そこで話そうよ」


「うん、うん。ごめん私ちょっと興奮して取り乱していた」


 はぁ~私の心の訴えが届いたのか親友を完全に人間に戻すことが出来た。ホッとして美心を見ると机に伏せてスースー寝息を立てている。どうやら限界だったらしい。


 美心にカーディガンを掛けると窓の外を見る。外ではご飯を食べ終わって話している女子のグループに校庭には食後の運動だろうか男子がサッカーをやっている。もう少し視野を外に持っていくと道路には車が走り時折、作業車両が走る。歩道にはベビカーを押した女性が見える。

 そこにはなんてことのない日常が広がっている。


 この世界の人は幸せそうだ。もちろん私も含めてだけど。ただこの世界が戦いに巻き込まれるってなったときどうなるんだろうか。

 前世の世界の人たちだってみんなが戦えたわけではないけど死というものが身近にあった分、覚悟みたいなのはあった。


 もし宇宙人が意思あるものとして明確に地球を手に入れようと狙っているのなら倒すか撃退、もしくは和平……最悪支配されれば何らかの終わりが見える。


 だが宇宙人があの寄生生物としてただただ生きるために来たのなら厄介だ。その辺りの病原体と変わらない。生きるための活動なら長い戦いになる。

 私だって寿命があるし永遠には戦えない。


 スースー寝ている美心を見る。


 私は全てを守れる訳じゃない。結局は手の届く範囲だけ、それ故に必ず私情が入る。私も人間だから美心と知らない人が敵に襲われていたら間違いなく美心を助ける。

 知らない人の家族から酷いと言われてもそれを受け止めるしか出来ない。


 あぁなんかいやなこと思い出してきた。色々考えても結局出来ることなんてたかが知れているのだ。深く考えすぎて深みにハマっても仕方ない。

 私も机に伏せて寝ることにする。



 * * *



 学校の帰り道、美心と衣装のことや他愛のない会話をしながら私の家に向かう。


「前世の記憶があるってどんな感じなの?」


「んー前の記憶っていっても戦ってばっかりだったからあんまり意味がないというか役に立たないというか。そんな感じだからどう? と言われても答えにくいなぁ」


「ふーん。じゃあエレノアだったっけ? 結婚とかしたの?」


 う、美心に悪意はないんだろうけど何気に気にしていることを聞いてくる。見栄を張っても仕方ないし正直に答える。


「ううん、結婚とかしてないし付き合ったこともない……」


「ほほう、それは残念。色々聞けるかと思ったのに」


 何を聞くつもりだったんですかねこの子は。そんな話をしているうちに我が家が近付いてくる。


「あぁぁ!? 忘れてた」


「え!? どうした詩」


 大きな声を出す私に驚く美心を引き寄せ耳元で囁く。


「あのさ、実は私と一緒に戦ってる奴がいるんだけどさ──」


「ええっ!? そうなの? どんな人?」


「いや人じゃない。犬だから。そして変態だから気を付けて。視線が低いのをいいことにスカートの中覗こうとするから距離とって、いい?」


「はぁ?」


 完全に混乱する美心を連れて我が家に行くと尻尾を振って目を輝かせている我が家の変態が待っていた。

 こいつ鼻と耳がいいから私と美心が近付いて来たことに気付いていたな。

 私は美心を背中にしてジリジリとキラキラ目のシュナイダーとの距離を取りながら警戒する。


「おっきい犬だね。この子が一緒に戦っているの? 変態って……目もキラキラして良い子そうだけど」


 美心が無用心に近付く。


 ちっ外見に騙されて! これだから変態素人は!


 姿勢を低くし頭を撫でてってポーズを取りながら美心の下に移動するシュナイダーに足払いを仕掛けると軽やかに宙に跳び避けられる。

 そこに拳を振るうとシュナイダーに当たる前に空気の壁に防がれ宙に空気の波紋が広がる。


「魔力まで使ってからにぃ!」


 シュナイダーも今の場所を心得ているのか風を刃物状にはしてこないが空気の塊を打ち込んでくる。それを拳で弾き攻撃を繰り出す私。乱打戦が始まる。


 吹き荒れる風……ニヤリと笑うシュナイダー。私は左の指を犬歯で噛み切ると『弾』を描き小さな石を投げる。


 石は魔方陣を通過すると加速し弾丸の様に飛んでいく。撃ち込まれるそれを風の障壁を張り受け止める。

 防御の為に正面に集中して風を集めたのだろう周囲に吹いていた風が和らぐ。


 やがてシュナイダーの風に負けて力尽きたように地面に落ちる石の弾丸。

 その隙に間合いを詰めシュナイダーの頭をヘッドロックして耳元で小声で怒鳴る。


「あんた美心のスカート覗こうとしたでしょ! それにわざと風を周囲に吹かせスカートを捲ろうと!」


「ふん、詩よ」


「なによ、言い訳なら聞かないからね」


「詩の胸の感触と耳に当たる吐息が心地好い」


 !?


 私は胸を押さえ全力で身を引いて距離を取る。こいつ本物の変態だ!!











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