第34話:音を紡ぎ旋律を奏でる
引き裂かれる壁から距離を置いて拳を構えるエーヴァ。
「たく、こっちの世界は武器がないから戦いにくい。かといって銃とか使う気にならないしなぁ。おっ?」
エーヴァが覆面の男の腰にあったコンバットナイフをホルダーから抜き取る。
「あたしの得物はもっとでかいんだがないよりはましか」
ナイフを手にし再び構えるエーヴァに壁を突き破り太く大きな手が襲いかかる。それを華麗に避けナイフによる斬撃を放つが手応えはほとんどない。
壁を突き破りその姿を現す体長5メートルほどのクマ。両手の大きく長い爪も特徴だが何よりもお腹にもクマの顔があるのが特徴だろう。
「なんだぁ? 気持ち悪いクマだな」
エーヴァが眉間にシワを寄せて嫌そうな顔をするが直ぐに微笑む。
「クマさん。私の名前はエヴァンジェリーナ・クルバトフといいますの。あなたのお名前は?」
クマは自己紹介をするエーヴァを見ていたが大きく手を広げるとエーヴァに向かって蚊でも叩くかの様に手のひらを叩く。
クマの手から血が垂れ、その手を広げると数人の男が巻き込まれたのか肉塊へとその姿を変えてしまっていてズルリと手から落ちる。
その肉塊の中にエーヴァの姿はなくいつの間にか宙を飛びナイフを構えている。
「たくっぅ折角自己紹介してやったんだからお前もしろよ」
クマの腕に着地するとその上を走りながらナイフを振ると閃光が走り少量の血が散る。
「少しは魔力がのせれるがやっぱ弱いな。『優雅に上品に』なんて注文つけるべきじゃなかったかぁ」
頭部まで走り顔面に斬激を放つが牙に防がれたので肩を蹴りバク宙して優雅に着地する。
「やっぱ道具がいるか。あのおっさんたちなんか持ってないか」
暴れるクマの攻撃を避けながら周囲を見渡すし取り敢えずその辺りに落ちた木片を拾う。
適当にその辺のテーブルをドンドンと叩き始めるエーヴァ。
「低い『ド』か」
簡易的な椅子の鉄のパイプを叩く。
「高い『ミ』ねぇ。まあ2種でもそこそこいけるか」
ニヤリと笑うエーヴァがリズミカルに椅子を叩くと周囲に浮かぶ『ミ』だけを印した短い五線譜が泡の様に漂い始める。
続いてテーブルも叩くと『ド』が印された五線譜が漂う。エーヴァがナイフを構え走る。クマを斬る前に『ミ』の五線譜に手を突っ込み泡が弾けると部屋に優しく響く高いミの音。
その瞬間エーヴァの持つナイフが鋭くクマの腕を切り裂く。
「高い音は鋭さを──」
泡を足で蹴り弾けさせ低いドの音を響かせながらクマの足を蹴るとクマが少しよろける。
「低い音は重さを加える、その旋律をもって調べを紡ぎ曲へと……なせればいいんだけどなっ」
ドを連続で響かせ蹴りをよろけるその足に放ち膝を折り前のめりになる体をミの音を弾かせ連続で斬りつける。
「ちっ、浅いな。楽器があると早いんだがなっと」
エーヴァの攻撃に頭から血を流すクマが怒り狂ったように爪を振り回すと小屋の壁を破りやがて倒壊させてしまう。
「っとあぶねえな。この天使の微笑をもつあたしに傷がついたらどう責任取ってくれるんだぁ?」
文句を言いながらナイフを投てきするとドとミを連続で響かせながら加速して飛んでいく。それがクマの太ももに突き刺さると一瞬で間合いを詰めその刺さったナイフを手に持ち真横に振り抜いて肉を切り裂く。
クマの足から飛び散る血が倒壊した小屋の床を赤く染める。
再び前のめりになるクマの腹部を蹴ろうとしてエーヴァは足を止める。
クマの腹部にある顔が大きく口を開きエーヴァの足を噛み千切るタイミングを見計らっていたのか悔しそうに唸っている。
「飾りじゃねえってことか。お前一体なんなんだ? こっちの世界に魔物なんていないはずだが」
エーヴァに問いの答えとでもいうようにクマの腕に亀裂が入るとバキバキ音をならしながら手から肩にかけてばっくりと割れていく。
糸を引きながら分かれた腕は4本の腕になりエーヴァに爪を振るう。
それらを華麗に避けていくエーヴァは攻撃をから距離を取るため大きく後ろに下がる。
それを4つの目が睨みクマは4本の腕を広げ2つの口を大きく開き吠える。
グオオオオオォォォォォォ!!!
耳を押さえ嫌そうな表情でエーヴァは睨む。
「なにがグオォ~だ。うるせえんだよ。耳がイカれる」
クマが突進してくると4本の腕を振り回し倒壊した小屋の横にある男たちが生活していたと思われる小屋の壁をぶち破る。
それでも止まらない攻撃が小屋を破壊していく。
倉庫の方と違い色々な生活品や食料が外に散らばっていく。
短いナイフで応戦するエーヴァは避けながらカウンターでクマの手足を斬るが攻撃は浅く腹の顔が噛みつこうとしてくるので懐に入りきれないので攻めあぐねる。
熊の4本の腕が同時にまっすぐエーヴァに向かって爪を突くと小屋にあった暖炉の一部を破壊してそのまま腕を広げ煉瓦を勢いよく飛ばしながら暖炉は粉砕されてしまう。
そのまま振り回した腕はソファーやパイプベッドなども破壊してしまう。
小屋の破片や生活用品が散乱する中を避けるエーヴァが足元にあったリボンのついた細長い箱を見つけるとクマの爪を屈んで避けそれを手に取る。そのままリボンに挟んであるメッセージカードを広げ目で読む。
『愛する妹ラリサへ
前からお前が欲しがっていたものをたまたま手に入れたんだ。これでお前の演奏を聞けるかな? 沢山練習してお兄ちゃんに聞かせてくれ。
レオーンより』
エーヴァがメッセージカードを投げ捨てると袋を破り中の細長いケースを剥き出しにしてケースを開く。
中にあったフルートを優しく取り出すとキイ指を当て唄口に息を吹くと優しい音色が響く。
「しっくりくるな。レーオンとか言ったなこれはあたしがもらうぞ。身代金目当てのプレゼントじゃあ誰も喜ばないからな。
まあ妹じゃないが演奏してやるからそれで許してくれよな」
エーヴァはフルートに口を当てると音色を奏で紡ぎ始める。
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