第27話:親玉探して手当たり次第!
町に溢れるゾンビに関して分かったことがある。一つは中の寄生生物は宿主がピンチになると体を捨て新たな宿主を探し飛び出てくる。
そして寄生生物が抜けた宿主は死んでいるということ。
電流の出力を押さえ中の生物だけ焼いてみようとしたがこれも失敗。
おそらく寄生された段階でもう死んでいると思われる。
他に摘出するとか方法はあるのかもしれない。でも私にそんなことは出来ない。
となればやることは今寄生された人々を殲滅させ被害を拡大させないこと、そして親玉を探す。だがこっちは宛てがないので取り敢えずはゾンビになった人々を倒し分母を減らすことにする。
なんとも行き当たりばったりな作戦ではあるが。
右腕から流す血が槍(道路標識)の柄を伝い穂先に血を溜めるとゾンビを切り裂きながら地面に大きく描くは『雷』の漢字。
それに突き立てる槍の穂先。
「『
流石に数が多いので減らす為広場に集めたゾンビを雷で貫き一網打尽にする。といっても20人程度だが。
普段の生活では試せないのでこの機会にやってみたかったことを試す。
地面に大きく描くのは『雷』の漢字そして宙に描くは『大』の漢字。
地面を蹴り大きく跳躍すると道路標識の槍を下に投げつける。『大』の漢字を通り抜けそのまま『雷』に当たると電撃が走り周囲のゾンビを感電死させる。
「う~んちょっと違うな」
イメージでは『
原因は分からないけど考えられるのは私のイメージの問題。前世と違い漢字の意味に私のイメージが重なることで発動するこの術はイメージが曖昧だと上手く発動しない気がする。
さっきの大雷は日本神話に出てくるイザナミにとりついた雷神の名前なわけだが、つよそー! ってイメージで放ってみたけど曖昧過ぎて発動しなかった。
それともう一つ考えられるのが漢字の順番だ。最初に『大』をもってきたことで槍に変化をもたらせなかったことが考えられる。
『大』って槍が大きくなるのか、質量を無視するわけにはいかないしどう対応していいか分からないそんな状態に陥ると予測。
前回の『
「あんまりカッコよく考え過ぎずにやってみよっか!」
ちょっと広い場所に出た私は地面に描く『鳴』の漢字。むむっ字画多いな! 宙に描く『雷』そして再び跳躍すると槍を下に向かって投げる。
『雷』で雷を纏った槍が『鳴』に当たった瞬間『
槍が落ちた場所を中心に波紋のように広がる衝撃波に辺りのゾンビは一網打尽! そして周囲の家や車も壊れちゃった!
「あわわわっ、まずいなぁこれ」
壊れたっていっても倒壊とかではなく損壊って感じではあるんだけど。家は一部が破損してるかもしくは焼けている。車なんかは黒く焦げてタイヤはパンクしている。家も車もガラスなんかは衝撃波でもれなく割れている。
「うん、仕方ない。今はもっと大切なことがあるんだー」
自分に言い聞かせ天狗のお面の位置を調整しマントを握りしめ周囲を警戒しながら走り抜ける。だれも見てないよね……
「ん? この魔力シュナイダー? あいつこっちに来たの?」
シュナイダーの魔力が近付いて来るのを感じる……というかあいつが通っていると思われる場所から火の手が上がっているからすぐ分かる。
そして真っ直ぐ私を目指してくるそいつの為に槍を構える。バッティングホームで。
「うたぁーーーー!! オレだ!! オレが来たゾ! さああ跨がれえええ!!」
「うっさいわこのこの変態犬がぁぁあああ!!」
槍(道路標識)をフルスイングしてカウンターでシュナイダーを打ち返す。バイーンと槍をしならせ吹き飛んでいくシュナイダーは叫ぶ間もなくゾンビの群れをボーリングのピンの様に吹き飛ばし遠くへいってしまう。
それを見届けた私は再び走り始めるがすぐにシュナイダーが復帰して横に並んで走りだす。
「いきなり殴るやつがあるか!! って詩なんだその色気もなにもない格好は!? その仮面を外して可愛い顔を見せてくれ!!」
私が無言で振る槍を軽やかにかわされる。
「正体ばれたらめんどくさいの! あんたも変装しなさいよ」
「そんなものなのか。こっちの世界はめんどくさいな。堂々と名乗って英雄とかにはなれないのか」
「そんなものよ。生まれた世界が違うんだから少しは合わせてよ」
そう言う私を訝しげに見るシュナイダーの目には疑いの気持ちが見える。
「その格好が常識なのか? オレは人間との生活は日が浅いから断言は出来んが違う気がするぞ」
「うっさい。非常時に常識はついてこれないの!! それより敵の親玉を探すから手伝ってよ。そいつがこの集団をコントロールしてると思うの」
文句を言う私にシュナイダーは軽い口調で言う。
「親玉? 人間の中に入っているミミズみたいな奴のか? それなら臭いの濃い奴を見付ければいいんじゃないか?」
私は跳ぶとシュナイダーの背中に立つ。
「おい、背中に立つな! フトモモで挟んでくれ! たのむ」
「うっさい! 臭いで分かるなら早く言いなさいよ!」
怒鳴る私の声を塞ぐようにシュナイダーは耳を伏せる。
「こいつらは皆同じ臭いがする。ただ違うのは濃さだ」
「ってことは同じ株から分かれてるってこと? つまり私の仮説は正しいってことじゃん。じゃあ誘導は任せた! いけ変態犬!!」
「変態でもいい、いいから挟め! オレを挟め!」
私が背中を蹴って訳の分からないことを叫ぶシュナイダーを加速させ先を急ぐ。
* * *
「小椋! 大丈夫か!」
滑り込むように車の影に入る坂口が叫ぶ。
「なんとか大丈夫ですよ。これやばくないですか」
坂口たちはビルの近くにいたため逃げ遅れ、さらに電子機器の原因不明の不調により連絡もとれない状況で必死に逃げながら生き延びていた。
「今何人いる?」
「多分8人だと」
坂口の近くにいた警官が答える。坂口が今いるメンバーを見る。警官や作業員や一般人といつ合流したかも分からない名前も知らない人たち。最初は十数人いたが次々と犠牲になりゾンビへと変貌していってしまった。
「くそっこのままじゃ俺らもあっちの仲間入りするのは時間の問題だ」
「坂口さんにまだ飯奢ってもらってないのに死にたくないですよ」
嘆く小椋を小突く坂口が少し笑う。
「お前ある意味凄いな。ここを無事に切り抜けたら奢ってやるよ」
小椋の発言で少し気持ちが楽になった坂口だがここを突破する手だてがあるわけではない。いっそ自分が引き付けて……なんてことを考えたときだった。
目の前の通りを真横に閃光が走り遅れて爆音を携え電撃が走る。瞬時に電撃に焼かれ倒れていくゾンビたち。
「な、なんだあれ……」
小椋が指差す方を見る坂口の目に映ったのは赤い犬の上に腕を組んで立つ黒いマントを羽織り天狗のお面を被った女性?
その謎の人物が走り抜けると熱い突風が吹き抜けゾンビたちを宙へ打ち上げ炎上させる。その凄まじい風と熱で目を開けることも出来ない坂口が恐る恐る目を開けたときにはゾンビの成の果てが転がっているだけであった。
「なんなんだ今のは……」
理解の追い付かない坂口は何者かが通ったと思われる焦げた道路をただただ見つめるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます