063_盗賊退治(三)
開戦から六時間ほど経過したが、ソーサーを投入したことで砦のほうが静かになった。
どうやら盗賊の掃討が終わったようだ。
「さて……。セリガン」
「はい」
「分かっているな」
「もちろんでございます」
何が分かっているのかというと、気配を消しながら本陣に近づく者たちの気配があるのだ。
俺は魔力を感じて気づいたが、女騎士セリガンはわずかな気配を感じ取ったようだ。
「殿下をお守りする! バーダンの部隊は前方へ、カルミアの部隊は左へ展開!」
ウーバー・バーダンとソドム・カルミアは共にアーデン騎士団の正騎士だ。
二人とも俺に従ってアルゴン迷宮に入っていたので、覚えているかと思う。
バーダンは騎士では珍しい斧の使い手で、その巨体から繰り出される一撃は破壊力抜群だ。
カルミアは騎士として王道ともいえる槍を扱い、偉丈夫もあって歴戦の猛者にも引けを取らない強さを持っている。
二人はセリガンの指示で配置につくと、現れた武装集団に躍りかかった。
俺は近づいてきたのは盗賊だと思っていたが、武装集団の装備はとても盗賊のそれには見えないほど立派なものだった。
「皆殺しにするな。二、三人は生きて捕縛しろ」
俺の指示を受けて、二人は「承知!」と返事を返してきた。
武装集団はいい動きをしている。
だが、アーデン騎士団員はそれ以上にいい動きをする。
身体強化薬による高負荷訓練が功を奏しているのは、間違いないと思った。
十五人ほどの武装集団はあっという間に鎮圧されて、三人を残して切り捨てられた。
捕縛される時に殴られて顔面をぼこぼこに腫らした三人は、縄をうたれて俺の前に座らされる。
「お前たちは何者で、誰に命じられて俺を殺しにきた?」
「「「………」」」
「まあ、聞かれて簡単に吐くわけはないな。だが、今吐いておいたほうが楽になれるぞ」
ちょっとだけ脅したが、俺のような子供が脅しても怖くはないとばかりに笑われてしまった。
「セリガン。こいつらには、俺の優しさが通じぬらしい」
「全くもって不遜です」
「あれを飲ませてやれ」
「はっ!」
小瓶に入った液体を三人に飲ませる。
三人は抵抗するが、騎士たちが押さえつけて口に流し込んだ。
「我らに何を飲ませた!?」
「お前たちは、死ぬのは怖くないだろう? だから、毒など飲まさんぞ。簡単には楽になれぬ、楽しみにするといい」
騎士たちに猿轡をしておけと命じ、視線を砦へ向ける。
飲ませた液体は自白剤だ。
俺の魔法で自白させることもできるが、薬を扱っている以上、こういう薬も作っている。
だから薬の効果を確認したいと思っていたのだが、俺の手持ちの犯罪者は少ないのでこいつらで試すことにした。
この自白剤は効くまでに少し時間がかかるので、それまで砦の様子を確認しながら待つとしよう。
▽▽▽
サンジェルムへ戻ると、サキノが待っていた。
「首尾は?」
「はい、問題なく」
短く言葉を交わして頷き、そのまま代官屋敷へ入った。
代官が飛んできて、俺の前で跪く。その額には大粒の汗が噴き出していた。
「ご、ご無事で何よりでございます。殿下」
「うむ、盗賊たちも討伐できたぞ」
「感謝の言葉もございません」
場を移して大広間に入る。
俺は上座に座り周囲をサキノやソーサーたちが固め、代官や町長と向かい合う。
「さて、今回の盗賊騒動の顛末について知らせておく」
代官と町長は青い顔をして、俺の言葉を待つ。
「盗賊団は壊滅させた」
俺の言葉に、二人は表情を緩めた。
「頭と数十人の盗賊を捕縛した」
代官の表情が一転し、視線が泳ぐ。
町長は関係ないが、代官が盗賊とグルなのが分かっている。そして、この代官は第七皇子の手下なのだ。
第七皇子は俺よりも十五歳年上の皇子だが、かなり目立っている皇子だ。と言っても、悪いほうに目立っているのだが。
そして、第七皇子は一応皇太子派なんだよ。皇太子の母親、つまり皇后は侯爵家の出身だが、そのガルディア侯爵家の分家筋の子爵家出身の側妃がこいつの母親なのだ。
親王である第四皇子ザックの母親も、ガルディア侯爵家の分家の出身だ。
つまり、ガルディア侯爵家の血が多く皇族に入っている現状で、皇子という特権に胡坐をかいて好き勝手やっているのが、第七皇子ってわけだな。
代官が第七皇子の家臣なのは多くの者が知っていることで、もし代官が盗賊と繋がっていたとなれば第七皇子としてもまずいことになる。
ただの役人が調べて代官が有罪になったのであれば、第七皇子もトカゲの尻尾切りをして自分を守ることができるが、相手が親王である俺ともなれば話は別で、第七皇子はかなり困った状況になるだろう。
「あ、それとな、余を殺しにきた奴らがいたな。あれは盗賊ではなかったぞ」
親王府には捜査権、逮捕権、裁判権がある。親王やその家臣にかかわることなら、こういった権限を行使できるのだ。
ただ金を盗んだとかちょっとした喧嘩なら問題ないが、今回は俺の暗殺未遂なのでもし代官が首謀者なら第七皇子もただでは済まない。
親王の殺害や殺害未遂は七親等まで処刑される重罪なのだ。
第七皇子が代官に指示を出したとなれば、第七皇子が首謀者となって七親等まで族滅されてしまう。
ちなみに、第七皇子の七親等は当然皇帝や俺も入るが、この場合、皇帝や皇子皇女は対象から外れる。もちろん、親王もだ。
ただし、母や同じ母の皇子や皇女は別で皇族の籍をはく奪されることになる。幸いなことなのか、第七皇子に兄弟姉妹はいないが。
話を戻すが、第七皇子が首謀者であれば、第七皇子とその母親であるキャサリン側妃とそのキャサリン側妃に連なる者たちが処分される。
ここで大きな問題が出るのだが、第七皇子の母親であるキャサリン側妃は皇后の出身家であるガルディア侯爵家の分家だということだ。
七親等ともなると、ガルディア侯爵家は外れる可能性はある。細かいことはちゃんと調べないとわからないが、ガルディア侯爵家は微妙な立場だ。
親王殺害は未遂でも七親等に類が及ぶ。皇帝、皇子皇女は除外されるが、妃は除外対象ではない。つまりガルディア侯爵の出身である皇后であっても妃の一人である以上、七親等に引っかかれば処刑されることになる。
皇帝が特別に恩赦を与える可能世もあるが、恩赦を受けても罪人であることに変わりはないので皇后の地位は剥奪されることになるはずだ。
長々と語ってしまったが、俺の目の前にいる代官の証言次第では、皇后やガルディア侯爵家を巻き込んだ騒動になってしまう。
「すでに代官が余の命を狙ったことは分かっている」
アルテミス・セリガンとその部下が代官に剣を向ける。
代官は真っ青な顔をしてガクガクと震えているし、その横にいる町長は腰を抜かしている。
「余に言いたいことがあるのであれば、聞いてやろう。言うがよい」
すでに盗賊の頭や捕まえた騎士たちから情報を引き出している以上、この代官は間違いなく死罪だ。
代官を死罪にするのは、親王である俺にとって造作もないこと。
「なんだ、何も言うことはないのか。ならば引っ立てろ」
代官は第七皇子の家臣だが、この代官所で働いている者たちが全て第七皇子の家臣というわけではない。
代官の直属の部下は全員捕縛したが、俺の殺害に関わり合いのない者を捕縛することはしない。
そんなことをしたら、このサンジェルムの行政が滞っていまう。まあ、今現在でも大変だと思うが。
「ソドン・アージャン上級官吏」
「は、はい。殿下」
このソドン・アージャン上級官吏は、サンジェルムの役人だ。
代官との関係が薄く、どちらかというと代官に嫌われて閑職に追いやられていた人物でもある。
「ボトム・クイサス代官が余を殺そうとしたため捕縛した。よって国が代官を引き取り、新しい代官を任命するまで、そなたが代官代理としてサンジェルムを治めよ」
「承知いたしました。殿下」
今回の件は、皇帝へ報告した。代官は法務省が引き取りにくるだろう。
代官が第七皇子の指示を認めたら、ここからは皇帝の判断になる。
いくら捜査権、逮捕権、裁判権、を持っているとは言っても、皇子を捕縛するのは親王である俺でもできない。
皇子を捕縛するには、皇帝の命令が必要だからだ。さて、皇帝はどのような判断をするのか。
まあ、俺の予想では代官は暗殺され、事件は有耶無耶になる。これまで俺を殺しに来て捕まったやつの末路は、暗殺されるというものだ。
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