046_アルゴン迷宮探索(四)

 


 しばらくしてディストラクションストームが収まった。

 広場で犇めき合っていたモンスターは、皆切り刻まれたと思う。


「リースは広間のモンスターの確認。C班はリースのバックアップ。ポーターはここに待機し、何かあればアーサーの命に従え。俺は後方の援護に向かう」


 皆が了承し、俺は後方の支援のために走り出す。

 騎士が五人並んだら隙間がなくなるような狭い通路には、多くのモンスターの死体が転がっている。

 そんな通路を塞ぐほどの巨体をしたモンスターが、死体を踏み潰しながら突っ込んできた。鼻先に角がある四足歩行のホーンライノーというモンスターだ。

 ソドムとボドムが盾でこれを止めようとする。普通の騎士なら間違いなく吹き飛ばされるはずだが、二人はホーンライノーを受け止めた。


 だが、モンスターはそれだけではない。地面はホーンライノーの巨体が邪魔で後続が通れないが、壁を伝ってクモのモンスターであるラインスパイダーがやってくる。

 ラインスパイダーはウーバーの大斧とサキノの剣で屠られていく。

 さらに、蝙蝠のモンスターであるキラーバッドが空を飛んでくるが、これはアザルとロザーリーが魔法で叩き落とす。

 しっかりと連携をとって安定してモンスターを防いでいるが、モンスターの数はまったく底が見えない。


「これより帝級魔法の詠唱に入る。アザルはタイミングを計れ」

「承知しました!」


 先ほどの広場と違って、ここは狭い通路だ。

 威力が高い帝級魔法の使用はかなり制限がかかる。

 だが、こういう狭い場所に丁度いい魔法を俺は行使できる。


「偉大なる雷の大神よ、我は魔を追い求める者なり、我は雷を求める者なり、我は雷を操る者なり、我が魔を捧げ奉る。我が求めるは偉大なる雷の大神の稲妻なり。我が前に顕現せよ」


 俺の詠唱が終わる直前に、アザルがサキノたちに「地面に伏せて避けろ」と叫ぶ。

 ホーンライノーを抑えていたソドムが、短槍でホーンライノーの目を突く。すると、ホーンライノーが一歩、二歩と後ずさる。

 この隙を見逃さずサキノたちが地面に伏せた。


「ライトニングバースト」


 バリッバリッバリッバリッバリッ!

 いくつもの稲妻が迸り、通路の地面にへばりつくように避けたサキノたちの上を一瞬で通り過ぎる。

 その先にいるホーンライノーやキラーバッド、ラインスパイダーなどのモンスターたちに、容赦なく襲い掛かっていく。


 ライトニングバーストは貫通性が高く、こういった通路では重宝する魔法だ。

 しかも、飛翔型なので先ほどのディストラクションストームのように、自分たちになんらかの影響を与えることはない。肉片も飛んでこない。


 ライトニングバーストがモンスターの群れを貫き、動くモンスターはいなくなった。


「B班はモンスターの生き残りを掃討。A班はそのバックアップだ」


 アザルとロザリーの魔法士コンビは休憩だ。

 魔法使いは魔法を使うと魔力を消費する。騎士も体力を消費するが、魔力がなくなった魔法使いは役に立たないので、魔力の回復をさせる。


「帝級魔法を二発も放ったのです。ゼノキア様もマナポーションをお飲みください」


 マナポーションは魔力を回復させる魔法薬だ。

 二人はマナポーションを飲んで、俺にも勧めてくる。

 だが、マナポーションというのは、めちゃくちゃ不味いのだ。飲んだらしばらく味覚が麻痺するくらいに不味いのである。


「この俺が帝級魔法二発で魔力切れになるわけないだろ」


 決して不味いから飲むのを拒否したのではないぞ。

 胡乱な目で俺を見るな! 本当に不要なんだよ。


 帝級魔法を二発撃つより、エリーナ・エッガーシェルトにかかっていた石化の呪いを解呪するほうが、よっぽど魔力を持っていかれた。

 多分、初めての解呪だから魔力を無駄に消費したんだと思う。呪いを解呪するというのは、精神をすり減らすし魔力も消費する。

 おそらくだが、俺の魔法の才能は解呪を得意としていないのだろう。それでも、膨大な魔力をこれでもかというくらい消費して、解呪を可能にしているんじゃないだろうか。


 モンスターが生き残っていないか、確認が終わって皆が集まってきた。


「ゼノキア様。こんなものが落ちておりました」


 サキノが差し出してきたのは、匂い袋だ。匂い袋というのは女性や男性でも貴族たちが持つもので、香り豊かな植物などを入れておくと、持ち主に匂いが移るというものだ。

 俺はそれを受け取り、中を確認する。


「………」


 これはただの匂い袋ではないな。

 まず、香りが独特でとてもいい香りとは言えない。中に入っているものを手に取ってみる。


「これは……」


 よく見ると分かるが、これはマサジナミスという植物を乾燥させたものだ。


「サキノ。これが落ちていたのだな?」

「はい」

「これはマサジナミスだ」


 サキノたちは知らないといった表情をした。


「簡単に言うと、モンスター寄せに使われる植物を乾燥させたものだ」

「「なっ!?」」


 皆が驚いている。

 どうやらこの中に、この匂い袋を落とした奴はいないようだな。


「あの騎士が故意にモンスター寄せを使ったと見るべきだろうな」


 おそらく刺客と思われる死体を見た。

 身につけているのは騎士団員のそれだ。


「しかし、それでは我らに殺されなくとも、あの者は生きては帰れないのでは?」


 サキノの疑問はもっともだ。

 俺なら自爆覚悟のこんな作戦は使わない。

 もっとも、正攻法(?)の暗殺では、俺を殺せないと判断してのものかもしれないが。


「死を覚悟しての行動だろう」


 サキノだって俺のためなら死んでくれるだろ?

 こいつも主君のためなら死ぬ覚悟を持っていたかもしれないし、もしかしたら金のためかもしれない。理由はともあれ、命を懸けるに値するものがあれば、やってしまうのが人間というものだ。


「すべての騎士団員の顔を覚えているわけではないですが、見覚えのない顔です」


 アーサーが死体の兜を取って顔を見るが、見覚えはない。ミリアムに確認するが、彼女も顔を横に振っているので、知らない顔らしい。

 目の下にクマがあって不健康そうな男の顔は、俺も見覚えがない。ここにいる者に見覚えがあるような奴を使うわけないか。


「ん。こいつは……」


 意味深な言葉を発したのは、地図作成のために連れてきたゲランドだ。


「ゲランド。見覚えがあるのか?」

「どこで見たか思い出していますので、ちょっと待ってください……。そうだ! こいつは、裏ギルドの暗殺者です」


 裏ギルドだと!?


「以前、探索者をしていた時に裏ギルドの摘発の手伝いをしたんですが、その時に逃げた幹部がこんな風体の男でした」


 ゲランドが思い出してくれたおかげで、俺を殺そうとしている奴の足掛かりができた。


「裏ギルドに関しては、他言無用だ。皆、いいな?」


 情報が外に洩れないように、全員に箝口令を発令した。

 裏ギルドか暗殺ギルドか知らないが、俺を殺そうとしたことを後悔させてやるからな。



 アーデン騎士団、団長アマニア・サキノ(男・剣・A班)

 アーデン騎士団、騎士ソドム・カルミア(男・盾・短槍・A班)

 アーデン騎士団、正騎士ボドム・フォッパー(男・盾・剣・B班)

 アーデン騎士団、騎士ウーバー・バーダン(男・大斧・B班)

 帝国騎士団、副団長(騎士長)アーサー・エルングルト(男・盾・剣・C班)

 帝国騎士団、騎士ミリアム・ドースン(女・槍・C班)

 魔法士アザル・フリック(男・杖・水・光)

 魔法士ロザリー・エミッツァ(女・杖・風・土)

 アーデン騎士団、従士長リース・ルーツ(女・斥候・弓)

 アーデン騎士団、従士ゲランド・アムガ(男・ポーター・地図)

 帝国騎士団、従士サージェ・ウイスコン(男・ポーター)


 

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