024_迷宮誕生
「殿下。大変です!」
元近衛騎士隊長で今は俺の私設騎士団長をしているソーサーが、執務室に駆け込んできた。
「騒々しな、何があった?」
「迷宮です! 迷宮が帝都の郊外に出現しました!」
「迷宮だと……?」
異常な世界と言われても、分かりづらいと思うだろう。だが、迷宮は個々によってその性質が違うため、一概にこうだと言うことができない。
共通しているのは、迷宮から多くの異形のモノが出てくるということだ。
異形のモノは人を襲い、大地を穢す。だから、迷宮から出てくる前に討伐しなければならない。
帝国は国土が広く、紛争地域を多く抱えている他に、迷宮も多い。
紛争地域は軍が対応しているが、迷宮は騎士団の担当だ。だから、毎年多くの騎士が迷宮で命を落とす。
「騎士団は動いているのか?」
「すでに五個小隊が迷宮内に入って調査を、一個中隊が迷宮周辺を隔離しております」
小隊は二十人から三十人、中隊は百五十から二百五十人規模だ。
「今後、二十個小隊が投入され、迷宮魔人の討伐にあたるとのことです」
「探索者ギルドはどうなっているんだ?」
探索者ギルドとは、迷宮専門に探索する者たちの組織だ。
迷宮内に現れる異形のモノは、魔法アイテムの素材になることが多い。その素材を集めるために、探索者と言われる人々が迷宮に入るのだ。
「すでに探索者ギルド総本部に、伝令を送ったそうです」
探索者ギルドの総本部は、帝都から離れた場所にある。
これまで帝都周辺に迷宮がなかったことで、帝都には探索者ギルドの総本部どころか支部さえなかった。
今回のことで探索者ギルドが人を送ってくるだろう。早急に迷宮魔人を討伐できれば、探索者ギルドの支部が置かれることはないだろうが、長引くなら支部を置くことになるはずだ。
「俺も迷宮探索をしてみたい」
「それは危険にございます。殿下」
サキノがやっぱりかといった感じで、諫めてくる。
「分かっている。だが、迷宮内であれば、俺の魔法が思いっきり放てると思うんだ」
「アルゴン草原で訓練すればよろしいかと」
「サキノ殿。そのアルゴン草原に迷宮ができたのだ」
ソーサーがサキノの言葉を否定する。
アルゴン草原とは、以前武装集団に襲われて、帝級魔法で百人ほどを骨も残さず焼き殺した場所だ。
「あそこはあまり人が入らないから、迷宮を作るのには丁度いいか」
「左様ですな。迷宮が作られた直後なら、すぐに迷宮魔人を討伐できますからな」
時間がたてばたつほど、迷宮は深くなる。そのため、魔人は辺鄙なところに迷宮を作り、発見を遅らせる傾向がある。
「まあ、騎士団の活躍に期待だな」
正直なことを言うと、迷宮は戦闘経験を積むのに非常に都合がいい。
この数年は刺客に襲われることもなく、毒を盛られることもなかったが、それは屋敷の警備が厳重だからだ。
俺の命を狙う者が減ったとか、命を狙う必要がなくなったわけではない。もとも、なぜ俺の命を狙うのか分からないでの、どうすれば刺客を気にすることなく暮らせるかは分からない。
そんなわけで、俺の身は俺自身が守る必要がある。毒に関しては毒サーチ魔法を開発する取り組みをしているが、物理的に攻撃してくる刺客を自分の力だけで排除できるだけの力がほしい。
そのために戦闘経験を積みたいわけだ。
「ソーサー。今後もその迷宮について細かく報告してくれ」
「承知しました」
ソーサーが執務室を出ていくと、サキノのため息が聞こえた。
「なんだ、何か不満か?」
「迷宮に入ろうと思っておいででしょ?」
「……そんなことはないぞ」
「そうやって目を逸らすところが、とても怪しいですな」
サキノは俺のことをよく分かっている。
さて、どういう理由を作って迷宮に入ろうかな。
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