015_取り組み

 


 後宮の前でサキノと別れ、俺は自室に入った。

 汗をかいたので着替えをして、朝食を摂る。

 俺の朝食は毒見役が必ずひと口食べているので、パンでもなんでもそのあとが残っている。

 毒見をしてくれている人には悪いが、こういう食事はあまり食欲をそそらない。


「そうだ、毒をサーチする魔法を作ろう!」


 毒を解毒する魔法はあるが、毒を事前に見ることができる魔法は存在しない。

 前世の記憶では魔法の世界は日進月歩で新しい魔法が生まれると言われていたが、今世では魔法の開発も成熟期を過ぎてしまっていて新しい魔法はなかなか発表されない。

 宮廷魔導士たちは新しい魔法を開発しようと日々精進しているようだが、出尽くしてしまっているのが後発の悲しいところだな。

 だから、新しい魔法が開発されると大きな話題になって、開発した魔法士や宮廷魔導士はとても大きな名誉と金を得るのだ。

 毒を見分けることができる魔法なら人々の役にもたつだろうから、開発できればきっと重宝されると思う。


 善は急げと言うからな、大図書館に向かった。そこで毒に関する本と、解毒の本、そして毒を見ることができるヒントになるような本を探してみた。

 毒に関する本と、解毒の本に関してはすぐに見つかったが、ちょっと探しただけで十数冊もの本が見つかった。

 俺はそれらの本のページをぺらぺらとめくって、内容を読んでいく。

 エッダとリア、そしてサキノには、毒を見ることができるヒントになるような本を探してもらっている。


 なるほど、この毒は神経を麻痺させて心臓の動きまでも止めてしまうのか……。

 こっちの毒は筋肉を溶かすだと? 恐ろしいものだ。

 毒のことを知れば知るほど、毒が恐ろしいものだということが分かってきた。


「ん、これは……」


 毒は適量であれば医療にも使える? そんなことが?

 植物のケシには感覚を麻痺させる毒があるが、この毒を適量使うことによって怪我や病気の痛みを和らげる薬になるのか。

 他にもある種の毒の場合、動物に少量の毒を注入してでき上がった抗体を血中から抽出することによって解毒剤を作ることができるのか……。

 なかなか難しいことが行われているのだな。


 魔法の場合、毒を解毒する魔法は絶対に効くとは限らない。

 解毒魔法は体の中にある不純物を取り除くが、毒が強力だとその成分が残ってしまったり、解毒が間に合わずに体内の組織を破壊してしまった後に毒が消えるのだ。

 今、解毒魔法で一番上位なのは王級魔法のポイズンキュアだが、帝級魔法で毒をかけられてしまうと解毒できない可能性もある。

 毒というのは、薬学にしても魔法にしてもなかなか難しい存在のようだ。


「おや、ゼノキア様ではないですか」

「ん、司書長か」


 俺に声をかけてきたこの司書長は、白髪で長い髭をたくわえた今にもぽっくりいきそうな老人だ。

 俺がよく大図書館に出入りしているので、仲よくなってしまった。


「今日はどのような本を探しておられるのですかな?」


 俺は毒をサーチできるような魔法を開発したいと司書長に話した。


「なるほど、ふーむ……。おお、そうだ、重要書の中にそのような本がございましたぞ」

「重要書……か」


 重要書というのは文字通りの意味で、重要なことが記載されている本のことだ。

 この重要書を閲覧するには皇帝の許可がいるので、残念ながら今すぐ見ることはできない。


「閲覧申請をお出しなされ。運がよろしければ、閲覧許可が下りましょう」


 皇帝に閲覧申請を出しておくとしよう。

 俺はこの日から毒サーチの研究を開始した。


 

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