016_四回目の危機

 


 なんでこうなるのかな……。

 俺は今、とても危険な状況に追いやられている。


 ここは俺の部屋の中だが、俺を護衛する二人の騎士はすでに事切れていて、俺も左腕に切り傷を負っている状態だ。


「何者だ」


 俺は左腕の傷を右手で押さえて、刺客に誰何した。


「………」


 返事が返ってくるなんて期待はしていない。

 刺客が動き、俺の胸に短剣を突き刺そうとしたが、俺は魔力を鎧にして体に纏ってその攻撃をなんとか躱した。

 残念ながら、最初の攻撃を感知した時には、短剣が左腕を掠っていた。


「はぁはぁ……毒か……?」


 刺客の短剣には毒が塗ってあったようで、俺の体は燃えるように熱く酷い痛みに襲われている。

 刺客は攻撃の手を緩めることなく、俺を殺そうとする。

 俺は体に魔力を纏わせて刺客の攻撃を躱しながら、体に入った毒の回収をするという高等技術をいきなりやってのけなければいけない。


「くっ!」


 刺客の短剣を避けるだけでも俺には大変なのに、それが毒までとは……。

 いったい、誰が俺をここまで執拗に殺そうとしているのだろうか?

 そんなに俺はその人物から恨みを買っているだろうか? わけが分からん。


 目がかすむ。こうなったら、一か八かだ!

 刺客の短剣が迫る中、俺は魔力を放出した。

 放出された魔力は刺客を吹き飛ばし壁に激突させた。


 赤ん坊の時に無意識に刺客を吹き飛ばした魔力の波動ともいうべきものだ。

 いきなりやってできるか不安だったが、なんとかなったようだ。


 短剣を握ったまま項垂れている刺客は、気絶しているように見える。だが、そんなことより今は毒だ。


「かはっ!?」


 俺は魔力で体に回った毒を一カ所に集めて吐き出した。

 なんとか毒を排出できたので、改めて刺客を見る。そこで扉が開きカルミナ子爵夫人たちが入ってきた。


「ゼノキア様!」

「賊を捕らえよ!」


 続々と人が入ってきて、賊を捕縛した。


「ゼノキア様、傷を!?」

「大事ない」


 毒はすでに吐き出しているので、水魔法で傷を塞ぎ、念のため解毒魔法をかけおいた。


 女性騎士が刺客を縛り上げて連行しようとしている。


「待て」


 俺は刺客の顔を覗き込んだ。


「なぜ俺を襲ったのだ?」

「………」


 言うわけないよな。でも、今の俺にはこれがあるんだよ。


「偉大なる闇の大神よ、我は魔を追い求める者なり、我は闇を求める者なり、我は闇を操る者なり、我が魔を捧げ奉る。我が求めるは偉大なる闇の大神の寵愛なり。我が前に顕現せよ、ファントムイリュージョン」


 俺の詠唱で何かが起こると思っていた騎士たちが、何も起きないことにキョロキョロしている。

 これは闇属性の帝級魔法で、その効果は人の意識を乗っ取るというものだ。

 対象が手の届くところにいないと意識を乗っ取ることはできないが、それでも帝級魔法なので効果は抜群だ。


「皆、下がれ」

「し、しかし……」

「カルミナ子爵夫人、全員を外に」

「……承知いたしました」


 俺の口調に何かを感じたのか、カルミナ子爵夫人は全員を部屋の外に出した。

 本来であれば捕縛されているとはいえ、刺客と俺を二人きりにするようなことはないだろう。

 しかし、俺の雰囲気が口答えを許さないのだ。


 全員が出ていったので俺は刺客の前に立って、刺客のうつろな目と視線を合わせた。


「お前の雇い主の名を言え」

「アムレッツァ・ドルフォン……」


 刺客は意思のない瞳をして答えた。


「ドルフォン……侯爵か」


 アムレッツァ・ドルフォン侯爵は現在の法務大臣だ。大物だな……。


「第四皇子は関わっているのか?」

「知らない……」


 第四皇子の母親はドルフォン侯爵の従姉いとこだったはずで、第四皇子はドルフォン侯爵の従甥じゅうせいになる。

 第四皇子は親王なので、次の皇帝になる可能性がある。

 もし、第四皇子が皇帝になったら、ドルフォン侯爵はそれなりの栄華を謳歌できる人物である。


 しかし、なんで俺を殺そうとしたのか?

 俺は親王になるのは決まっているが、皇帝になるわけではない。

 それに俺が親王になることで不利益を被ったのは第二皇子であって、第四皇子ではないのだ。

 う~ん、なぜなんだろうか?


「ドルフォン侯爵が暗殺に関わっている証拠はあるのか?」

「ない……」


 証拠がないとなると、この刺客が仮に口を割ってもドルフォン侯爵を追い込むのは難しいだろうな。

 相手は法務大臣なんだから、法の抜け道くらい分かっているだろうし。


「お前はどのような組織に所属しているのだ?」


 話を変える。


「フォールンの闇……」

「そのフォールンの闇は今までも俺に刺客を送ったのか?」

「知らない……」


 これまでの暗殺騒ぎをドルフォン侯爵が主導した可能性もあるけど、別の人物の可能性もある。

 敵は多いと考えておいてほうがいいだろう。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る