011_屋敷選び
「おめでとうございます」
俺の前で跪いているのは、ジークフリード・ウルティアム伯爵だ。
ウルティアム伯爵は俺の母親の父、つまり、俺の外祖父になる。
だから、俺が親王宣下を受けるということが、とても嬉しいのだろう。
将来俺が皇帝になることがあれば、皇帝の外祖父として大きな権力を握れるかもしれないんだ、そりゃー喜ぶだろう。
「お爺様、ありがとうございます。これからもよろしくお願いします」
「はい、ゼノキア殿下の御ために」
親王にならないと殿下と呼んではいけないので、まだ親王宣下を受けていない俺に対して殿下は正しくない。
「父上、まだ親王になったわけではありませんから、殿下は早いですよ」
母が窘めたので俺は頷いておこう。
「あ、これは、失礼を」
頭に手をやる仕草がなんともわざとらしい。
ここは後宮の母親の部屋だが、今回は特別に皇帝が許可を出してくれたので、男性である祖父が入ってこれた。
「アーマル様もゼノキア様の親王宣下と同時に正妃になられるとか、本当にめでたいことです」
「ありがとうございます。父上」
「そうだ、今日は祝いの品をお持ちしましたぞ。お納めくだされ」
「「ありがとうございます」」
祝いの品はどれも目が眩むほど高価な壺や花瓶、そしてなにより金である。
これだけ見ても、祖父の喜びが大きいことが分かる。
祖父と会った数日後には、祝いの品が届くようになった。
お披露目パーティーの前倒しが公表されたのだ。
皇子が五歳になった時に行われるお披露目パーティーだが、このパーティーが終わると俺は四歳でも後宮から屋敷に移ることになる。
皇子のほとんどは帝城の外にある屋敷に移るが、俺は親王になるので帝城の中に屋敷を賜ることになった。
今、宮内省の役人と帝城内の屋敷について協議をしている。
俺としては小さな屋敷でいいのだが、宮内省の役人が提示してきた三つの屋敷はどれも宮殿かと思うような広い屋敷だ。
親王になるのだから、役人たちも俺に気を遣っているのだろうが、それが迷惑になることもある。
「これ以外にはないのか?」
目の前に座る役人は二人、その後ろには十人の役人が立っている。
座っているのは宮内省の役人のトップである政務官と幹部の参事官で、立っているのはその部下たちだ。
「他にも用意できますが、屋敷の規模がやや劣りますが……」
ハンカチで額の汗を拭きながら、参事官のザムド・アッセンバットが答えた。
こんな可愛い四歳児と話をするだけなんだから緊張するなよ。
「ゼノキア様、これ以上の物件を用意するのには些か時間が足りません。申し訳ございません」
政務官のカムナス・エルージャだ。
どうやら、提示された屋敷が小さいから、俺が怒っていると思っているようだな。
そんなに不貞腐れた顔をしていたのだろうか? 俺としては屋敷の規模が大きくて驚いていたくらいなんだが……。
前世では大王だったが、宮殿や城にはほとんど住まずに戦場を渡り歩いていたから、小さな屋敷で十分に満足するぞ。
「いや、もう少しこじんまりした屋敷のほうがいいと思ったのだ」
「こじんまり……ですか……?」
政務官たちは拍子抜けした表情をした。
「お前たちも知っておろう、俺の命を狙っている輩がいるのを」
「は、はい……」
「屋敷が大きいと警備がしにくくなる。適度に小さいほうが都合がいいのだ」
「そ、それでしたら……」
政務官は後ろに控えている部下に視線を送ると、部下の一人が後方に置いてあった資料のいくつかを政務官に渡した。
「こちらを……」
政務官はまた三つの屋敷を提示してきた。
その資料を受け取って目を通すと、二つは先ほどの三つの屋敷よりも小さくなっているが、まだ大きいな。
しかし三つ目を見た時、俺はこれだと思った。
「この屋敷でいい」
「は、はい……」
資料を受け取った政務官は簡単に目を通して、それを参事官に渡した。
「本当にこちらでよろしいのでしょうか?」
「お前が勧めたのだぞ?」
「そ、それは……」
「冗談だ。それでいい。いや、それがいいのだ」
「承知しました」
俺が選んだのは帝城の北側に建っている屋敷だ。
以前、帝城の裏庭を散歩した時に見たことがある。俺の希望通りのこじんまりした屋敷だったと記憶している。
あくまでもこの帝城の中の屋敷では、という前提があるけどな。
屋敷は改修を行ってから引き渡してもらえることになった。
帝城の裏庭の先にある屋敷なので、この数十年は管理人以外は誰も住んでいなかった屋敷だ。
そのため、他の物件より建物の傷みが酷いので、俺が引き取らなかったら数年後には取り壊しになっていたらしい。
改修は宮廷大工と言われる職人が行う。帝城内の建物や城壁の改修や取り壊し、そして新築は全て宮廷大工が行うのだ。
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