005_魔法を訓練したのだが、俺の才能が怖いぜ
「ゼノキア様、お時間です」
侍女のエッダが服を持ってきた。
これから第十三皇女のセリヌのお茶会へいく予定なのだ。
セリヌの母は子爵家の出身で、俺の母親であるアーマルの出身家の分家筋にあたる。だから、母親同士の仲がいいことから、時々お茶会に呼ばれるのだ。
「もうそんな時間か」
エッダが俺の服を着替えさせてくれる。
前世では自分で服を着ていたが、今世では侍女が着替えさせてくれる。いまだに慣れないが、俺がわがままを言うと侍女たちが困るので大人しくしている。
長い廊下を通りすぎて、セリヌの部屋へ向かう。
許可をもらって部屋に入っていくと、薄い桜色の髪にエメラルドグリーンの瞳を持ったセリヌと俺の母であるアーマル、そしてセリヌの母親のロミニス庶妃がすでにいた。
「母上、ロミニス様、セリヌ姉上、遅れました。すみません」
約束の時間には間に合ったと思うが、三人が待っていたので頭を軽く下げておく。
「まだ時間には余裕がありましてよ、ゼノキア」
母が口に扇子を当てて笑う。
「そうですよ、ゼノキアさん」
ロミニス庶妃はセリヌ同様に、薄い桜色の髪をした美しい女性だ。
この後宮に住むのは皇帝の妃だけあって、見目麗しい女性が集まっている。
もっとも、皇后や最初のころの妃は政略結婚の意味合いが強いので、見た目ではなく家柄が優先させているけど。
何が言いたいかというと、皇后や最初の頃の妃は年を取っているのもあるが、かなり厚塗りの化粧をしても美しくはないということだ。
「ゼノキアさん。今日はようこそおいでくださいました」
「セリヌ姉上。ご招待いただき、ありがとうございます」
親しい間柄の四人でお茶をした。
母親の腹はかなり目立ってきている。順調だ。
「最近は剣を振っているそうですね、ゼノキア」
「はい。木剣ですけど体を鍛えようと思って、やっています」
母親の質問に、簡潔に返事をする。
「まあ、ゼノキアさんは賢いですね」
ロミニス庶妃の言う通り、二歳児の言葉じゃないなと俺も思う。
三人との会話は楽しい。
やはり気心の知れた人とのひと時は心が安らぐ。
▽▽▽
俺は四歳になった。
昨年、俺の弟が生まれた。第十三皇子になる。
生まれたばかりの弟に会いにいきたいが、弟といっても簡単には会えないのがこの後宮なのだ。
だが、弟が俺のように刺客に狙われてはいけないと、万全の警備を皇帝に上申した。
皇帝も俺が何度も刺客に狙われていることを考えて、警備を強化してくれた。
こういう時に何もできない自分の無力さを思い知る。
俺は前世で火属性と水属性の適性があったので試してみることにした。
水属性は攻撃にも使えるが、傷や病気を癒す魔法もある。命を狙われている俺には必要な力だと思う。
「水神の加護をいただく我が魔力を捧げる。我が前に顕現せよ、ウオーターボール」
詠唱が終わると、俺の目の前に拳大の水の球が顕現して、真っすぐ的に向かって飛んでいく。
魔力操作の訓練をしっかりとやってきたので、水属性の適性がなくても魔法が発動するのは分かっていた。
簡単な下級魔法ていどなら、適正がなくても魔力量があるていどあれば発動するのだ。
今のウオーターボールの魔力消費の感じなら、俺は水属性の適正はあると思ってもいいだろう。
「おめでとうございます、ゼノキア様!」
「ゼノキア様は水の魔法士として才能がおありなのですね! さすがでございます」
魔法が発動したのを見て侍女たちが興奮しているが、その後ろでは俺の護衛をしている騎士たちが目を見開いて驚いている。
俺が魔法を使ったのはこれが初めてで、これまでこういった属性魔法の訓練はしていなかったのだから、騎士たちが驚くのも無理はない。
訓練もしていない人物がいきなり魔法を行使したら、誰だって驚くだろう。
今度は火属性を試してみることにした。
「炎神の加護をいただく我が魔力を捧げる。我が前に顕現せよ、ファイアボール」
炎の球が現れて飛んでいき、的に当たると的が燃え上がった。
「水属性だけではなく火属性も! 素晴らしいです!」
「さすがはゼノキア様です!」
侍女たちの声援が気持ちいい。なんだか調子に乗ってしまいそうだ。
前世では二属性しか持っていなかった俺だったが、今世ではどうだろうか?
「風神の加護をいただく我が魔力を捧げる。我が前に顕現せよ、エアカッター」
見えない刃がスパンと的を切り裂いた。
「地神の加護をいただく我が魔力を捧げる。我が前に顕現せよ、ロックニードル」
石の針が的を貫通した。
「光神の加護をいただく我が魔力を捧げる。我が前に顕現せよ、ライトニングアロー」
光の矢が当たると、的が融解した。
「闇神の加護をいただく我が魔力を捧げる。我が前に顕現せよ、ダークレイン」
黒い霧雨によって的が溶けていく。
「大神の加護をいただく我が魔力を捧げる。我が前に顕現せよ、マナスラッシュ」
的が弾け飛んだ。
「「「「……」」」」
侍女と騎士たちが目を剥いている。
俺自身も驚いているので、皆で呆然としている。
「ゼノキア様、なんですかそれ……?」
侍女のエッダが詰め寄ってきた。
「なんですかって言われても、俺も驚いているだけど?」
「全属性の適性があるなんて、これはすぐにカルミナ子爵夫人に報告しませんと!」
侍女エッダの鼻息が荒い。
エッダの報告を受けたカルミナ子爵夫人は、母親に俺の属性のことを報告した。
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