第21話 ルカの覚悟
珍しく少女らしいワンピースを来たルカが、偵察から戻ってきた。彼女なりに偽装して、情報収集をしてくれているらしかった。
ティナはといえば、数日、娼館の角部屋…ルカの私室にかくまわれている。ティナ自身にも追っ手がかかっており、
自分は身を潜めているしかないことが、もどかしかった。
「やっぱりエドガルド様も…近衛師団のみんなも、牢屋に入れられたみたいっす…宰相のお父上と、エドガルド様が結託して、国王陛下を殺したことになってるっすね…」
「そんな…」
「それで、今、実権は王太子が握ってるっす。何せ、軍を王太子と神殿勢力が抑えてるのが大きいっすね。宰相派はがんがん投獄されて…事実上のクーデターっすよ、王太子の。一般市民でも、王太子の悪口を言おうもんなら捕まって…みんな怯えて出歩かなくなってるっす。歩いてるのは、王太子と仲の良い商人どもと、神官ばっかりっすね…」
「いくら王都がそんな感じでも、周りの都市は?」
「それが、主だった都市の領主は、みんな王太子を支持してるっすよ…」
「そんな…」
「辺境伯を、大軍を出して制圧しようとしてるっす。北門付近に少しずつ召集しつつあるっすけど、あれを見たら、みんなびびるっすよね…特に辺境伯以外の領主は軍事力もないし、従うしかない状況っすよ。」
ティナは険しい顔でうなずいた。
「北方制圧軍は、まだ王都を出ていないのね?」
「はい。でも、おそらく、もう、明日かあさってには…」
「そう…」
「ルカ、大変!兵隊が来てるよ!」
いきなり部屋に飛び込んできたのは、娼館付きの娼婦の一人だった。
「ルカのこと探してるって!王様の兵隊で、ルカだけが捕まってないから…調べてここまできたんだって!おかみさんが足止めしてるから、逃げて!」
ティナとルカは、弾かれたように立ち上がった。
◆◆◆
2人は娼館の裏を抜けて、王都の外壁近くまで走った。
後ろを振り返ると、兵士たちが追ってくるのが小さく見える。
ふとティナが空を見上げると、一羽の鷹が、王都の外壁を超えてこちらへ飛んで来るところだった。
「アメツ!」
指笛をならすと、アメツはまっすぐにティナのもとへと降りてきた。
その足には、小さな紙がゆわえつけられている。
「にしもんにて まつ」
「アメツ、叔父様を連れてきてくれたのね!」
「ちょうどまっすぐ行けば西門っす…今は北門に兵が集中していて、他の門の配備は手薄になってるっすよ!姐さん、ボクが足止めしますから…姐さんは、逃げて!」
「そんな…無茶よ、ルカ!ルカも一緒に…」
「いいから、走って!」
ルカは、立ち止まり、剣を抜いた。「ボクはまだ弱い」そう言った小さな剣士の覚悟が、その背中に漲っている。
ティナは頷くと、振り返らず、走り続けた。
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