誰も私なんか見ちゃいねえ

various(零下)

誰も見ていないから安心しろ

 自分にとって大切な人は、自分をしっかりと見てくれている。その点においては信じている。自分も、自分にとって大切な存在を、とても真剣に見る。何故なら、互いに『大切な存在』だと確信しているからだ。信頼関係を築き、信頼を失わぬように注意を払う。縁が繋がる努力も、縁を維持する努力も怠らない。


 しかし、自分にとって、ただの他人は、特に私を見ていない。もしも誰かの視界に映っても、私に対して何も感じない人が大多数だろう。朝からボサボサの頭をしていたら、「なんだ、あのボサボサ頭は」くらいは思うかもしれないが、その程度だろう。


 ご近所の目を気にしすぎる人、ショッピングモールで誰かとすれ違ったとき、自分が注目されていると思う人。とにかく、自分の存在を誰かが常に気にしていると思っている人。

 上記の感情が行き過ぎて、世界中の人間が自分を注目していると思い込んでいた人がいた。私の親だ。

 淡々と、「人はアンタを注目するほど暇じゃないよ」と思っていた。

 黙々と、「どうして自分は常に注目されていと思えるんだろう。売れっ子の芸能人なら判るが、どこにでもいる一般人なのに」と、考えていた。

 買い物をすると、レジ係が自分を気にしている。ゴミ出しをすると、ご近所さんが自分を見ている。私は注目されている。

 いやいや、誰も何も見ていないよ。個人を特別に思う場合には、特別な感情を抱く理由がないと、人は他人に対して基本的に無関心だと思う。無関心じゃなかったとしても、向けられた感情は、大した内容ではない。


 上記を理解できないのか、理解したくないのか知らないが、出かけたときや誰かと話したときに、いちいち、周りが自分を注目している話を聞かされてウンザリした。

 誰も見ていない。特に注目していない。これといって何の感情も向けられていない。ゴミ出し程度で、いちいち人を観察しない。

 人にはそれぞれ生活があり、やらねばならない事柄がある。朝っぱらか、近隣住民のゴミ出しの様子を注目する暇も理由もない。


 他人は自分を見ていない。挙動が不審ではなく、これといって問題なく生活していれば、むしろ誰の目にも留まらない。

 歩きスマホをしている人間を見かけると、私は嫌な気分になる。歩きスマホが嫌いだからだ。しかし、歩きスマホをしている人間を、いちいち観察しようとは思わない。「歩きスマホ、やめろよ」程度にしか思わない。


 他人は自分を見ていない。視界に映っていたとしても、認識されていない。大多数の人が、そのような感じだと思っている。


 やたらと人の目を気にする人、自分が注目されていると思い込んでいる人に何か言うつもりはないが、そういう人を見かけるたびに、「誰も貴方を注目していないよ。人はそんなに暇じゃない」と、心の中で呟く。


 自分は他人にとって大切な存在でも特別な存在でもない。視界に映らないし、視界に映っても認識されにくい。

 上記のように考えて商品を作ると、人の目に留まり、売れる。私の場合だけかもしれないが。

 自分が作った商品は、人の視線には入らない。認識されにくい。人の目に留まりにくいものなのだと、初めから思って作ったほうが、むしろ売れる。


 ネット小説は、どうだろう。私は、タイトルやキャッチコピーを決める際、色々と考えて決めている。決めていた。

 今、この文章を書きながら、こう思っている。

 私の作品は人の目に留まりにくい。視界に映らない。映ったとしても認識されにくい。

 上記の事柄を事実として確定し、タイトルやキャッチコピー、エピソードタイトルを決めたら、どうなるだろ。

 へんに意識してタイトルなどを決めるから、むしろ、誰の目にも留まらないのかもしれない。

 自分の作品はカクヨムには存在しない。そう最初から思っていた場合と、誰かに読んでもらおうと意識している場合。結果的に、どちらを意識したほうが、作品が他人の目に留まるのだろう。


 こんな内容を朝から書いている理由は、先ほど読んだネット漫画の主人公が、コンビニのレジ係の反応を、いちいち気にしていたからだ。

 主人公は、小説新人賞を受賞して商業作家デビューした。しかし、受賞作のみを出版し、二作目はデビューから二年が経過しても出版できていない。よく見かける設定だ。

 物語そのものは興味深いが、主人公は「どうせ私なんか」と卑屈になり、他人を一切、信じない。自分の小説を待っている読者などいないと決めつけている。

 誰も私を見ていない。誰も私なんか気にかけていない。そんなふうに何度も言うわりに、赤の他人のコンビニ店員が自分を嫌っていると思い込んでいたり、コンビニ店員は私を気にしている。私のことが嫌いじゃないのかもしれないと考えたりする。

 このコンビニ店員は作中では完全なモブで、名前や年齢すら登場しない。けれど、主人公は、自分の周りにいるモブの存在を、とにかく気にする。ただのモブなのに。

 自分は誰にも注目されていないと言いながら、ネット上で自分の話題をしている読者の存在を探している。

 この漫画は、二作目の長編作品が執筆できずに悩んでいるプロ作家の話だが、主人公の言動の食い違いが激しく、集中して漫画を読むことができない。

 結局のところ、主人公は、自分は誰かの視界に映っていて、自分の存在を認識されていると思っている。そのように感じる。だから、モブが自分を嫌っているかどうかが、いちいち気になるんだろう。

「私なんか、どうせ誰も見ていない」と言いながら、主人公自身が、周囲の目を気にしすぎている。


 きっと、他人は自分をそこまで深くは見ていないし、考えてもいない。何故なら、他人だからだ。他人が自分に向ける感情が特別で、大多数の他人が自分に特別な感情を向けていたら、むしろ怖い。

 この場合の『特別な感情』とは、実際には特別でもなんでもないのだが、とにかく、ゴミ出しの際に遭遇した近隣住民やコンビニ店員や客など、いちいち気にしない。無難に生活を送っていれば、特に何とも思われない。


 無難に生活をしている一般庶民や、売れていない小説家が他人から注目されることは、たぶん、ほとんどない。

 人の目を気にしすぎると、とても疲れると思う。作品を書いてネットに投稿したとに、誰かの視界に映ったらラッキー程度に思っている。

 商品は売り物にならなければ話にならない。なので、どのような品なら購入してもらえるのか、商品説明文をどう書くかなどは、真剣に考えている。が、基本的に「自分の商品は人の目に留まりにくい」を忘れないようにしている。


 今朝は少し早く目が覚めて、時間を潰すためにネット漫画を読んだ。朝から変な主人公に遭遇したので、過去の経験や自身の考えなどを基に、意見をまとめてみた。

 読んだ漫画は、総合的に見て、私には面白くなかった。



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