08

 相棒の心が。


 限界だった。


「おい」


「心が限界来てるよ。しんどいなあ」


「がんばらなくていい。迎撃タイミングさえつかめれば」


「いやあ。肉眼で捉えられる速度じゃないし。なんとかして耐えないと」


 心を優先してほしい。生きてほしい。街がなくなったとしても。彼には、生きていてほしい。


 だが、それは、無理なことだった。


「君こそ。震えてるぞ。大丈夫かな?」


「ばかいえ」


 こわかった。


 何度見ても。


 ひとが死ぬのは。こわい。


 自分の掌のなか。このボタンを押せば、ミサイルが飛んでいく。それはどんな通信や音声会話よりも速く、実行される命令。沖合の空母とこのボタンが連結している。


 手が震えて。


 ボタンを落とした。


「ひどい有り様だな」


 ボタン。拾おうとするけど、手が震えて、だめだった。


「すごいよ。君は。そのボタンに、街の人間全員の命が乗っかってるんだから。それを」


 それ以上の言葉が、出せないらしい。車椅子。彼は、静かになって。目から生気が、消えた。


「くそっ」


 ボタン。拾えない。

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