03
「サンドイッチ。美味しいわ」
「そっか。よかった。残りも食おうぜ」
本当は。好きなひとのために作ってきた、サンドイッチだった。ときどき。こうやって、空振りになる。そうなると、彼女とふたりで食べてしまう。
女二人。
公園の片隅で、お昼ごはん。
神経に不具合があって。身体の一部が、ときどき動かなくなる。今日は、左手首から先が動かなかった。
手を振ったときに、だらっと指が垂れていたけど。彼女は、そんなこと気にもしなかった。
彼女の存在は。わたしにとって、貴重なものだった。わたしの身体の不具合について、訊こうとしない。それが、まるではじめからそうだったかのように。接してくれる。はじめてのことだった。
彼女は。わたしの身体ではなく。心と向き合っている。それが。心地よかった。
もっと仲良くなりたい。一緒に街に繰り出したりして。誕生日プレゼントとかも渡してみたい。というか、誕生日が知りたい。
だからといって、ぐいぐい押すわけでもなかった。彼女は彼女。わたしは、わたし。こうやって、公園で。好きなひとが来なくてふたりでごはんを食べるぐらいでも、ちょうどいい。
わたしにとって、彼女が大事だから。彼女がこわさないようにしている距離感も、大切にしたい。
「うまいうまい」
サンドイッチを頬張る彼女。やさしい風が、公園を吹き抜けていく。
「お料理できるって、いいなあ」
「たいしたことじゃないぜ。誰でもできる」
神経に不具合がある以外は。ほとんどのことができた。頭もそこそこいいし、運動神経も度胸もある。
街中のタワーマンションに住んで、何でも屋をやっていた。神経の不具合で職に就くのが難しいからと周りには話しているけど、本当は違う。
いろんなことが、したかっただけ。身体のどこかが、ときどき動かなくなっても。いろんなことは、できる。
好きなひとに。
会いたいな。
「フルーツサンドイッチもあるぜ?」
「え、フルーツ。甘いの?」
「うん。どうぞ」
女二人で。とりあえず。公園にいる。これもこれで、たのしかった。
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