竹馬のおもいで

クサバノカゲ

過去

 幼いころの記憶だ。


 僕の家は一軒家だけど借家だったから、生き物を飼うことは禁止だった。だから通学路の途中のゴミ捨て場で、生まれたての小さな竹馬を見つけたとき、片いっぽうだけで震えていたその子を、家の近所の神社の裏でこっそり育てることにした。


 名前は「タケオ」にした。安直すぎると言われるかもしれないが、三日三晩かんがえ尽くした末に初心に立ち戻って付けた名前だ。はじめてそう呼んだときタケオは、嬉しそうに三回、その場で跳びはねてくれた。


 竹馬は基本的には草食なので、誰も手入れをしない草ぼうぼうの神社の敷地内では、エサにことかくことはなかった。だけどタケオは、僕がときどき少ないお小遣いから捻出して買っていく「ちくわ」がなぜか大好物で、そのときも三回その場で跳びはねて喜ぶものだった。


 タケオは順調に育って、すぐに僕が乗るのにちょうどいい背丈になったけれど、竹馬は二頭立てが基本だから、なかなか乗りこなすのは難しかった。でも僕とタケオは、お互いの信頼関係のもと、バランス感覚と体重移動と「しなり」で補いあって、それを可能にしたんだ。


 タケオに乗って神社の敷地内を跳びまわり駆けめぐるのは最高の気持ちよさだった。けれど、幸せな日々はそう長くは続かなかった。

僕らのことをこっそり見ていた近所の悪ガキが、僕がいないときタケオに無理やり乗ろうとして、振り落とされ怪我をしたんだ。


 親からさんざん怒られた僕にできることは、危険だから捕獲して折ってしまえという大人達から、タケオがうまく逃げてくれることを祈るだけだった。


 結局、タケオがどうなったか、大人達は絶対に教えてくれなかった。僕はときどき神社の裏でタケオを待ってみたけれど、会えたのは野良猫だけだった。

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