第3話「ここに置いてくれだべ」

 なんとかしたいけど……あ、そうだ。

 もしかするといけるかも。

 うん、やってみよう。

「あの、ちょっと失礼します」

 俺は写真に向かって言った後、それをちゃぶ台の上に置いて手を合わせ、スマホを取り出して撮った。


「あの~、それなんだべさ?」

 キクコちゃんがスマホを指して聞いてきた。


「ん? ああ、これはスマートフォンと言ってね。電話したりメールしたり写真撮ったりゲームしたり」

「んだら事言われてもわかんねえべさ」

 キクコちゃんは頬を膨らませて言った。

 おお、リスみたいで可愛らしいな。

「っと、これは遠くにいる人と話したり、一瞬で手紙を送ったりするものなんだよ」

 こんな説明でいいか?

「ひゃあ~、そったらもんがあるなんてすっげえべさ」

 キクコちゃんはそう言ってスマホをじっと見ていた。


「まあ、ひいおじいさんがこっちにいた頃にはこんなの無かったけどね。てか魔法があるなら似たような事出来るんじゃないの?」

「いんや、そげな事はよっぽどの魔法使いしか出来ねえべさ」

「あれ、キクコちゃんはそうじゃないの?」

「あたすはまだまだ見習いだべさ」

「宙に浮かんだり別世界に来れるのに、それでもかよ」

「んだ。ところで今何してたんだべ?」

「ん、ああ。これを大勢の人に見せてね、知ってる人がいないか尋ねるんだよ」


 ネットの力ってホント凄いよな。

 以前SNSで見たことあるけど、一枚の写真から年代と場所を特定したってのもあったし。

 そういうふうにだったらいいのに、違う方にが目立つ……。


「ひゃあ、そっだらこともできるって、この世界って凄いもんがあるんだべなあ」

 キクコちゃんは目を見開いていた。


「うん。でも確実とは言えない……待てよ?」

「どうしたべ?」

「いや、もしかしたら手がかりがあるかもだが……そうだ。魔法で遠くへワープとか出来ない?」

「出来るけんど、行ったことない場所へ行くのは無理だべ」

 それはゲームの魔法と一緒なのか。

「そっか。じゃあやっぱ一泊は覚悟で行くしかないか」

「あれ、どこ行くんだべ?」

「俺のひいばあちゃん家でね、ここからだと遠いんだよ。仕事もあるし行くのは今度の休みだな」

 俺は今日と明日が休み。

 もしキクコちゃんが昨日来てたら、無理すれば行けたかも。

「あ、お仕事してるんだべな。魔物退治かお城勤めだべか?」

「お城じゃないけどいいとこだよ。あと魔物なんていないよ」

 いや、ある意味ではいるか。

 人間という魔物が……。

 てかそっちには魔物がいるのか?


「ま、まあ、とにかく次の休みに夜行バスで行くかって、席空いてるかな?」

 俺がスマホで検索しようとすると、

「バスってなんだべ?」

 キクコちゃんはまた首を傾げる。

「ああ、それも無いんだな。あのね」


「ひゃあ、こげなもんもあるんだべか?」

 バスもだが次々と変わる画面にも驚いているようだった。

「うん。えっと人が十日くらいかけて歩いて行く場所に半日もかからず着くんだよ」

 あそこまでだとそのくらいだよな。


「そうだべか。えれえ便利なもんがあるんだべな」

「うん。あ、そっちには馬車とかも無いの?」

「昔はあったけんど、五年前から禁止になったんだべ」

「え、なんで?」

「魔法や工夫次第でなんとか出来るんだから動物を働かせるなって、陛下が即位した時に言ったんだべ」

「そりゃまあ、魔法があるなら馬車なんて要らんよな?」

「んだ。それと肉や魚、鳥を食べるのも禁止になったべ。『それも魔法でなんとか出来るのに、まだ動物を食べる気か!』って陛下が激怒したべさ」


 陛下ってもしかして、異世界転生した犬将軍か?


「って、魔法でってどうやるの?」

「錬金魔法の一種で肉のモドキが作れるんだべ」

「そんな魔法あるんだ。あ、キクコちゃんは使えるの?」

「あたすじゃちっちゃいのしか作れねえべ。それとお師匠様に聞いたんだけんど、こっちじゃ作ってもすぐ消えるみてえだべさ」

「それでもいいからさ、一度試してみてよ」

「じゃあ、えい」

 キクコちゃんが手をかざすとポンと音を立てて小さなマンガ肉が現れたが、彼女の言うとおりすぐ消えた。


「本当なんだな、残念」

「あたすもやってみて分かったけんど、錬金魔法はこの世界じゃ波長が合わないみたいだべさ」

 キクコちゃんが自分の手を見つめながら言う。


「浮かぶのはできるのにな。あ、火とか雷は出せるの?」

「この世界にいる精霊が答えてくれるなら出来るべ」

「そういうもんなのか。あの」

 俺は魔法や異世界の事をもっと聞こうかと思ったが、時計を見ると二十一時だった。


「ねえ、今日はもう遅いし一旦帰ったら?」

「それはダメだべ。お師匠様が言うには、異世界へは一生に一往復しか出来ねえみてえだべさ」

「え、それじゃ帰るのは目的を果たした後?」

 もしくは時間切れでか。


「そうだべさ」

「じゃあさ、泊まるとことかどうする気だったの?」

 まさか野宿? いや魔法で家を出せるとか?


「最初から勇者様にお世話になるづもりだったべ」

「はい?」

 そう言ってキクコちゃんは居住まいを正し、

「勇者様、どうがあたすをここに置いてけろ」

 三つ指ついてゆっくり頭を下げた。 


 ……なに、この漫画みたいな展開は?

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