二十一、桜並木
花の咲かぬ 春が来ました
あの日から 並木の桜は立ち枯れて
陽が綻ぼうと 菫が歌えど
芽も膨らまぬ 枝を寒々と広げるばかり
それさえも 無惨に折られ 斬り取られ
空がひどく水色です
淡い雲がほのぼのしく
白を青に溶かしています
少しく離れた小川では ひらりひらりと舞い落ちた
ほのかな紅の
此処にはただの
渡る鳥の哀しさよ
こもごものさえずりの高らかさよ
謳うほどにもの淋しい
いずれついばむ実りさえ 訪れはしないのだ
澄んだ
紫蘇にも似た 澄み渡った香り
漂っていた
満ちるほどに 芳香を放っていた
あれは 最期に残した涙の匂い
それとも 最期を飾る祝宴の薫り
いったいどちらだったのか
わかりません わかりようもないのでしょう
花の咲かぬ 春が来ました
並木のみなが立ち枯れて
それでなお 空は水色 高らかなさえずり
菫が歌い せせらぎに薄紅が散る
ただ此処のみが寒々しく
迎えた春が蒼褪めて
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます