二十一、桜並木

花の咲かぬ 春が来ました

あの日から 並木の桜は立ち枯れて

陽が綻ぼうと 菫が歌えど

芽も膨らまぬ 枝を寒々と広げるばかり

それさえも 無惨に折られ 斬り取られ


空がひどく水色です

淡い雲がほのぼのしく

白を青に溶かしています


薄紅うすべにが足りない


少しく離れた小川では ひらりひらりと舞い落ちた

ほのかな紅の切片せっぺんが せせらぎに遊んでいるというのに

此処にはただの一片いっぺんも 散り咲く花がありません


渡る鳥の哀しさよ

こもごものさえずりの高らかさよ

謳うほどにもの淋しい

いずれついばむ実りさえ 訪れはしないのだ


澄んだが 思い出されます

紫蘇にも似た 澄み渡った香り

漂っていた

満ちるほどに 芳香を放っていた

あれは 最期に残した涙の匂い

それとも 最期を飾る祝宴の薫り

いったいどちらだったのか

わかりません わかりようもないのでしょう


花の咲かぬ 春が来ました

並木のみなが立ち枯れて

それでなお 空は水色 高らかなさえずり

菫が歌い せせらぎに薄紅が散る

ただ此処のみが寒々しく 

迎えた春が蒼褪めて

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