十三・ちしょうーことだまろうしー

きつねび揺れる沼のほとり

よくよく見れば、そは萌ゆる花


橙色だいだいいろに広がる花を

すっくと支える細い茎

みなもは鏡に透き通っている


澄明な潤み

灰色に深く、やわらかに、

とろりとからだを呑み込む泥の堆積


沈んでいる


誰が、


子らが


罪なき子らが沈んでいる


めぐり、かさなる、時とえにし

憐れ

ひとり、ふたり、またひとり、

繰り返し子らが身を沈む


風が吹き渡っている

笹葉が揺らぎ、さりと鳴る

鳴る

鳴る

鳴りやまぬ


なんと重い泥なのか

なんと静かな風なのか

ざわめきながら静寂をたた

なんともとろりとした水鏡


囲う竹林が震えている

尽き果てぬ常葉の緑よ

常世のゆめ

うつしよの憂い


広く沼が横たわっている

静謐に微睡んでいる

閑寂に嘆いている

うるわしく呼んでいる


泥は重く、そして冷たい

澄んだ水は生温かい

こぽりと沼は呼吸する

橙色の花が揺れる


あれは薬になるのです

あれは、薬に、なる……


彼岸の花にそこはか似ている

橙色のきつねびの花

萌ゆる

燃ゆる

揺らぐ

埋める


村の外れの竹の林の間の道の細い先の

笹葉の梢の鳴りやまぬ奥の開けた土地の湿った土の

ぬかるみに変わった沼の上の張りつめた水面の透明な細波の

内側の泥の奥の底の冷たい裏の深い逆側に

きつねび呑んだ子らの息吹が

まるく

丸く

数珠なりに

遠く、永く、眠っている


コンコン

きつねがないている

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