六、王子と姫とサーカスと・2
え? 真相が知りたい?
まったく無粋な人ですね。ショーの舞台裏を覗こうなんて、夢の世界が台無しじゃないですか。
はあ……、仕方ないですね。種明かしをご覧に入れますよ。ほら、こちらへ。
見えますか。あそこに置いてあるでしょう。あれが今夜の出演者の正体です。そう、ご覧の通りの人形ですよ。
よくできているでしょう? 関節は球になっていて、どこも滑らかに動くんです。オートマタですよ。中に螺子や滑車が組み込まれていましてね、自動で上手に動くんです。尤も、それだけではあれほどの踊りはできませんから、ほら、よく見て下さい、ここのところ。糸が繋いであるでしょう。これで補助的に操るんです。
つまりオートマタでマリオネットの球体関節人形。そういう仕掛けの見せ物ですよ。
ああ、つまらない。物事の裏側なんて知らないほうが楽しいでしょうに。真相なんて代物はね、藪の中だから面白いんです。白日の下に晒すなんて無粋も無粋、全部がパァですよ。あっという間に色褪せて夢から醒めてしまいます。
え? 王子の行方を知らないか? 姫の居場所も?
なんです? まさかおふたりとも行方不明だとか? これは国の一大事、わたしなんぞに知られてしまって宜しかったので? ふふ、軽率ですね。余程焦っていらっしゃる。まあ、お世継ぎが行方知れずとあってはねぇ。あなたの責任は重大ですよ。
そんなことは問題じゃない? まあ、誠実でいらっしゃることで。生真面目だなぁ。石頭って言うんでしょうか。いやだなあ、そんな顔で睨まないで下さいよ。あなた、意外と強面ですよ。こう、いかついのとは違いますけど、怜悧って言うんですかね、冷酷そうなお顔立ちだ。
冷酷と言えば、優しいだけの人と言うのも、見ようによっちゃあ冷たいですよね。
ま、そんなにご心配なさらずとも、いずれお帰りになるんじゃないですか? 何せぬくぬく育ちの王子様とお姫様だ。そうそうふたりきりで遠出もできませんでしょう。お腹もすくし、足も疲れる。冒険に飽きたら戻ってくるでしょう。今頃どこかで保護されてるかもしれませんよ。
それとも何か? この国では王族に良からぬことをする輩が跋扈していると? そんな噂は聞いてませんでしたがねえ。平和で享楽的なよい国だと。ああ、すみません、少々口が過ぎましたか。よそ者のたわごとですよ。旅芸人風情ですからね。お気を悪くなさらないで。
さて、わたしはそろそろ次の興業の仕度をしなくては。あ、この人形のことはくれぐれも秘密ですよ。うちで一番の稼ぎ頭になる予定ですからね。
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