ねもはも

八京間

 二度寝の合間に、夢の中で鵺を飼った。今になって考えてみれば、虎の足も蛇の尾っぽも持たぬあれは鵺とは違うけれど、世に伝わる鵺の姿とは異なっていたことだけ覚えていて、夢の中で飼育したそれがどんな姿かたちをしていたかは、もう定かではない。しかし、夢中にて鵺と呼んでいたので、便宜上夢の覚めた後でもあれのことは鵺と呼ぶ。

 私は随分と鵺を可愛がった気がする。縁側でうとうと舟を漕いでいると膝に載ってきて、よくわからない柄の毛皮がほのかに暖かい。手のひらに出汁を取るのに使った昆布の、細かく切ったのを載せて差し出すと、手ずから食べ、満足そうにペヨヨと鳴いたのが愛らしかった。

 鵺の散歩をするときは、紐や縄、鎖の類を使わなかった。川沿いを歩くと、蒲を掻き分けて鵺が後を追ってくる。鵺の通ったところ蒲は皆倒れて、後になって土手から見下ろすと、背の高い蒲の中に長く道が窪んで、まるで大蛇の眠っているようなのを見て、訳も分からず面白くて、げらげらと笑った。

 川沿いから駅の方まで、人のいない街をずっと行って、百貨店の前まで来た辺りで、さすがに休憩しようと座り込んだ。街には色がない。色があるのは私の身体だけで、道も建物も空も何も灰色であった。濃淡だけがあって、自分の手のひらの色だけがひどく異質に感じた。色付きの両手に青々と血管が這っているのを見ていると、鵺が私の手にかじりついて、色を食った。たちまち私は灰色の濃淡の塊になり、代わりに鵺の口内だけに色がついた。鵺が咀嚼するたび色が混ざって、全ての色が混ざって、やがて世界は灰色だけになる。毒抜けしたような、得も言われぬ快感を以ってその光景を眺めていた。

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