青年幻灯

刎ネ魚

1・アール

ひいらいでくれ。



痛みに悶え、苦しんでくれ。

涙を浮かべて、笑んでくれ。


そのお前を、愛しているのだ。

そうあるお前こそ、愛おしいのだ。


もがいてくれ。

爪を立て、唇を噛み、苦い思いを飲み干しながら、

笑ってくれ。


絶望の淵に佇み、

肌を裂く風に圧され、

今しも墜落せんとしながら、

永久に、永遠に、そこに踏みとどまってくれ。


恨みつらみを口にして、

憎しみに牙を剥きながら、

嘆き、喚き、慟哭しながら、


時に膝を折り、ひざまずき、うずくまりながら、

両目を悲壮に染め上げて、

止め処もなく頬を濡らしながら、


なお、


なお、


伸びた背筋を歪めることなく、

据わった腰の重心をぶらすことなく、

胸を張り、顎を引き、

しかと前を向く。


後悔を、悔恨を、懺悔を、

誰にも渡さず己で抱え、

離さぬ故に苦痛に喘ぎ、呻き続けながら、

永久を生きるお前が欲しい。


心からの笑みなど、真の安らぎなど、

ありはしない。

そんなお前を愛している。

そうあるお前をこそ、愛していたいのだ。


許しておくれ。

赦さなくて構わない。

愛させておくれ。





まなじり高い双眸に、埋め込まれた黒曜石の

丹唇

白磁の肌

烏の濡れ羽色の髪

長い、長い、髪

潔く、勇ましく、頭頂高くで括られた、

後ろに尾を引く長い髪

細い鼻梁

剥き出しの額

肉付きの薄い頬

鋭角を結ぶ華奢なおとがい

長い手足

意外な長身

さらに意外な筋肉質な肉体

鍛え抜かれた強い躰

しなやかに、瑞々しく、重さを捉えた若い肉

低く、高く、通る声

感情豊かな澄んだ謡声うたごえ

同じく感情を豊かに反映させる柳眉


ひとつひとつが美しく、

けれどいずれも完璧ではない


果敢無い

脆い

隙が残る


成年でなく

少年でもない


半端な、中途な、未完成の心と体


そんなもので、

そんな危うい代物で、

後先考えぬ向こう見ずさもないのに


愛したのか。

命がけで愛したのか。

命を散らして貫いたのか。

命を差し出して成し遂げたのか。

己の愛を、愛情を、

犠牲にしてまで受け止めたのか。

愛されることを。


憐れな

惨めな

無謀な

愚かな

痛ましい

愛おしい

美しい


お前。


ひいらいで、

果てしなく

尽きぬ悪夢を歩む者





せめて今だけは、

忘我の快楽けらくに満たされるがいい


嗚呼、そして

我に返った瞬間に

歪むそのかおを見せてくれ


永久の愛を誓おう。





いつだったか、

私はお前を縊り殺しそうになったのだったね。


あの時のお前ときたら、

まったく話にならない。


まるで私を見ていないし、

遠いことばかり思い耽って、

自らの首を絞めていた。


あれほどみすぼらしいお前など、

初めてではなかったか。


あれほど美しいお前など……

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