『妖女サイベルの呼び声』

 「世界幻想文学大賞受賞!」表紙にこう書いてあったら、気になりますよね。それが、『妖女サイベルの呼び声』を買った理由です。

 しかし、読み進めていくと驚きます。物語は静かに始まります。主人公であるサイベルがどのように生まれ、どのように育ったか。それを淡々と説明するやり方は、余裕を感じさせます。どうしても、物語の冒頭はインパクトを持たせたいものですからね。

 幻獣を友とするサイベルですが、コーレンという騎士が訪れることで物語が動き始めます。このあたりの物語のスピード感も驚きです。サイベルは人間との交流がなく、怖い人のように描かれています。

 コーレンはサイベルに赤子を預けます。サイベルは、子供に愛情を注ぐことを覚えます。この物語は、サイベルが成長し、葛藤していく物語です。呼び声という魔術の力を持ちながら、彼女は人とのかかわり方をほとんど知りませんでした。それが、子供との出会い、そして別れによって、人と、そして人の世とのかかわりを学んでいくのです。

 すごい冒険などが描かれているわけではありません。でも、どんどんと物語に引き込まれていくのです。ファンタジーの、底力を感じます。

 この作品に出会って、「私もこういう話を書きたい」と思いました。幻想文学への憧れが本格化しました。それとともに、作者のマキリップに対する畏怖のようなものも生まれました。なんかすごいもの生み出す作家だぞ、と。

 そしてこれを書くために読み返していたのですが、やはりすごいです。ファンタジーっていいですね、としみじみと思う作品です。



パトリシア・A・マキリップ『妖女サイベルの呼び声』(1979)佐藤高子訳、ハヤカワ文庫FT

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