暇つぶしに書いた短編小説

和野鳥 ガダン

死神は最後まで泣かないのだろうか

 眠りを誘う歌があるらしい。何でもその曲は、ジャンルがよくわかっていないそうだ。作曲者が制作した直後に永遠の眠りに誘われてしまったからである。

 わかっているのは、曲名が『眠り』ということだけであった。

 その曲は脳に直接作用し、聴いたものを眠らせる。もし仮に、その曲を聴いても眠らないものが居たのなら、この永遠の眠りに包まれた世界を救うことだろう。

 嗚呼、私ももう眠い…。

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 『コードネーム・死神』

 その名を知っているものは、彼女を見ると顔を青ざめさせる。もしかしたら、次のターゲットは自分かもしれない。そういう類の恐怖を感じるからだ。

 今、彼女は酒場に居た。子ども扱いしてきた男を容赦なく叩きのめし、椅子に座り注文をする。

「カルーアミルク、できるだけ度数が高いのを。」

 彼女と酒場のマスターは古くからの知り合いで、親友と呼べるほどに仲が良かった。

「はいはい、分かりましたよっと。で、今回の仕事は?」

 しかし、彼の一言で彼女の表情が固まる。その表情を見て、彼は少し悲しそうな表情を浮かべた。

「てめぇら!今日は店じまいだ、さっさと帰れ!」

 その言葉に数名が苛立ち、彼のほうを見た。が、彼の目の前から睨む少女の殺気にあてられ、逃げるように帰ってしまった。

「お前も帰んな?この後、何が起こるか察しのいいお前さんならわかるはずだ。」

 と、この店の唯一の店員に声をかけた。

「え?俺、帰りませんよ?」

 という店員の言葉に、彼は目を丸くし、その後笑った。

「ああ、お前そういう奴だったな。はー、腹痛ぇ。」

「申し訳ないけど、巻き込むよ?」

 彼女がそう言い、スマホを操作すると、店内の音楽がジャズロックから変化する。

「ああ…。じゃあ、また来世で会おう。俺は…もう眠い。」

「マスター、寝るの早いですってば…。まあ、俺ももう眠いんですが…ね。」

 彼女がかけた曲は『眠り』という、聴くものすべてを永遠の眠りへと誘う呪いの曲。彼女以外、この曲を聴いたら最後、眠るように衰弱死してしまうという。

 ああ、最後に。と、店員の青年が言う。

「マスターが作るカクテルの比率、この紙に書いてますんで…」

 気が向いたら、作ってみてください。

 その言葉は曲のせいか、はたまた言葉にならなかったのか、店内には全く響くことはなかった。

 彼女の頬には、まるで宝石のように綺麗なカクテルが流れた。

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