ステラエアサービス フライトログ

有馬桓次郎

#1 わらしべ飛行譚

第1話 01


 この時代、若手飛行士が一人前の空輸パイロットとして羽ばたくには、三つのハードルがある。



 ひとつは、操縦士免許を自家用から事業用へ切り替える際の、必要な条件をクリアすること。


『総飛行時間一〇〇時間以上、その内機長として出発地点から240キロメートル以上の飛行で、中間において一回以上の生地着陸を含む五時間以上の飛行をすること』


 お役所的な言葉だが、つまり合計で一〇〇時間を超える飛行をおこない、そしてその内の一回は、途中で給油などの離着陸をふくむ長距離飛行をおこなえ、ということだ。

 簡単なように見えるが、飛行にかかるすべての経費を自分で負担しなければならない自家用パイロットにとっては、クリアするにはそれなりに大変な条件といえる。



 ふたつめは、事業用操縦士免許を取った後で、会社からあてがわれた機体にいち早く慣れること。


 それまで訓練に使っていた機体は、良くも悪くも操縦が比較的簡単で、その飛行特性もできる限り癖がないように設計されている。

 しかし、実際に荷物を運ぶ仕事用の機体となるとそうはいかない。


 どの機体も少しでも多くの荷物を運べるように、少しでも長い距離を移動できるように、少しでも高い速力で飛べるように設計され、そのぶん操縦性や飛行特性がバーターされている。

 ましてや、先の大戦中の軍用機をレストアした上で貨物機に改修しているような場合だと、そのクセの強さは相当なものだ。


 だから、どこの会社も入社したての新人パイロットの養成には時間をかけているし、どうしてもモノにならなかった新人パイロットはドロップアウトの運命が待っている。

 少しでも早く社有機のクセをつかんで営業の第一線に立とうと、会社からあてがわれた比較的簡単な仕事に全力を傾ける新人パイロットたちの様子は、いずこの空港でも見ることができる春の風物詩といってもいい。



 みっつめ。これは空港によって与えられる課題が大きく異なっている。


 例えばある空港では「合計で五〇〇回数ソーティの飛行をこなせば一人前」としているし、またあるところでは実際に試験のような仕事をあてがい、それをつつがなく終えることができれば合格としている空港もある。



 そして、甲府盆地の中央部。

 釜無川の流れに沿って滑走路を伸ばしている県営玉幡飛行場けんえいたまはたひこうじょうの場合は────



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