第4話
我が校には長距離歩行という行事があった。
朝学校を出発して、到着した運動公園で昼食をとり、また学校へ戻る。ただただ、長距離を歩くだけの行事だ。
夜にでもあれば、まだロマンがあるのだろうが、炎天下を歩かされるので生徒には不評である。
クラスごとに歩くとはいえ、時間の経過によって隊列は崩れ、大抵は友達と歩くことになる。
一年生の時だった。
行きは親しい友人達と世界史に出てくるワードでしりとりをしながら、そこそこ楽しく歩くことができた。
帰りは、部活動に出るためにペースを上げて歩くという友人達と別れ、一人歩いていた。
行きと違って帰りは長い隊列はできず、三々五々にみんな歩いている。
一応、学校集合の後解散となっているが、点呼されるわけではないから、もしかしたらそのままどこかへ遊びに出かけた生徒がいたのかもしれない。
歩いていては本も読めない。
私はイヤホンを髪で隠して、こっそり音楽を聴いていた。
何百人という学生が歩くのだから、車通りの少ない田舎道を歩くことになる。
目に入るのは青空と、アスファルトと、何が植えられているのかわからない延々と続く畑。
一息つくために立ち止まり、道の脇で水を飲んでいると、チカが通り過ぎた。
私は音楽をとめ、チカに追いつくと、並んで歩き始める。
「もっと先を歩いているんだと思った」
運動部はこの後も部活があるのだ。当然先を急いでいるものと思っていたが、チカの足取りはゆっくりとしている。
サッカー部は明日の練習試合のために、今日の部活はないのだとチカは言った。
そこから学校に着くまでの三時間ほどを二人で歩いた。
その間、ずっと話をしていた。
いつもは無口なチカもよく喋った。
話す以外することがなかったからかもしれない。
私は今読んでいる本から、母が看護師であること、母から聞いた病院での面白いエピソードなどを話し、チカはサッカーのこと、古い映画が好きなこと、亡くなった母親が内科医だったことなどを話してくれた。
話の中で一番印象に残ったことは、チカは、ただサッカーが好きで、誰かの想いだとか期待だとか夢なんかを背負ってプレーしたくないのだと言っていたことだ。
穏やかな話し方ではあったが、迷いない口ぶりだった。
潔癖すぎる感覚だと思った。少し幼いとも。でも嫌いではない。
私はチカを大人だと思っていたから、そういった年相応の面があることが不思議だった。
二年生のときも、また同じように、長距離徒歩の復路は一緒に歩いた。
お互い少し真剣な話をした。
真剣な話をしても、茶化さない相手だと、お互いにわかっていたからだ。
また来年もこうして話したいと思ったが、三年生は受験もあり、この行事の参加はできない。
寂しいと思ったが、こんなときではなくても、チカとは話せるのだと思い直した。
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