チカのこと
秋月カナリア
第1話
気づくと部屋が真っ暗で、つけっぱなしだったテレビのちらちらとした光が壁に映る影を揺らしていた。
カーテンは閉まっている。外も暗い。時間を確かめたかったが、壁掛けの時計は暗くて見えないし、手元に携帯電話はなかった。
なにもかもが億劫だ。
ソファから体を起こしてテーブルの上に置いてあるカップを手に取る。底に少しだけ残ったコーヒーを飲んだ。
今日は何曜日だったか。着ているものを見るとスーツであるから、きっと今日は仕事だったのだと思う。明日も仕事だろうか。
このまま寝てしまおう。幸い寒くはない。服に皺がよるだろうが構うものか。それを注意してくれる人は、もういないんだから。
首元を緩めて、もう一度横になろうとした瞬間、背後で物音がした。
床が軋む音のように聞こえた。
背後には磨りガラスがはめられた扉があり、その向こうは廊下が玄関まで続いている。
扉を見たまま、ゆっくりと立ち上がった。
鍵はかけただろうか。ぼんやりとそう思う。
泥棒かもしれない。いや、こんな深夜に玄関から入ってくるようなら、強盗だ。
心臓が強く鼓動した。
扉に注目したまま、息を殺して待った。
誰かが扉の向こうにいるなら、磨りガラス越しに見えるはずだ。暗いけれどそれくらいわかるはず。
立ったまま磨りガラスを見続けていたが、なにも変化はなかった。
ただの家鳴りだったのかもしれない。
それとも、
「チカ?」
声が掠れた。
そのまま待った。が、それきり何の音もしない。
先ほどよりもさらに大きな疲労感を覚えて、倒れこむようにソファに座る。
チカに会いたかった。
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