第12話 荷物1


     宛先不明郵便様


 どんな書き出しにしようか悩みましたが、


 宛先不明なのだから、何一つ着飾ることなく書きます。


 数十年以上経ちますが、当時私には不倫相手がいました。


 その頃は、本気でその人と生きる未来を思い描いて、


 その相手の愛情を疑うことすらありませんでした。


 が、やはり私の独り相撲だと思い知ったのは、


 彼の妻が2人目の子供を出産したことを知ったときでした。


 今思えば、本当に浅はかなことをしたと思いますが、


 その頃の私には、世界の中心が彼であり、自分でした。


 奥様に自分の存在を、


 彼に愛されている私を知らしめたと思った時、


 彼に愛されているのは奥様だと自分が思い知らされました。


 それから数年後、私も家庭を持ち、


 自分のしたことの重みを感じる経験もしました。


 ようやく、穏やかさも感じることのできるようになった時、


 その不倫相手が送り主の荷物が届いたのです。


 驚きました。


 そのお相手とのことは、既に記憶の奥底にしまい込んで、


 思い出すことすらなくなっていました。


 夫がその荷物を受け取らずに済んで、心底ホッといたしました。


 この荷物を目にした時、本当の意味での恐怖を感じました。


 不倫相手自身ががこれを送ることができるはずもなく、


 あきらかに奥様が送ってこられたものでしょう。


 『いらない』『お前にくれてやる』そういうことなのでしょうか。


 荷物として送り返すことも憚られ、


 私は、奥様にお返しするために足を運びましたが、


 書かれていた住所には、人の住む家は建っておりませんでした。


 私の手でどこかに納骨することも考えましたが、


 やはり、いつか夫が知るようなことになったらと思うと、


 それは私には怖くてできません。


 本当に申し訳ありませんが、


 こちらを受け取っていただきたく存じます。


 よろしくお願いします。


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