第14話成人と入隊
貴志は、成人した。
鴉も兄よりも年下であったが年齢が曖昧ということにし、成人させて兄と同じく青龍隊へと入隊した。青い半纏を身にまとった鴉は、嬉しそうであった。父も母も、その姿に涙した。実の子の成人した姿を見た時よりも、嬉しそうに思えた。そして、そこでも鴉は当確を現したのであった。
どんな訓練も楽々とこなしていく、鴉。
そんな鴉と兄弟であることが、憎らしくて誇らしかった。
可愛いのに、可愛いと思えない、弟。
そんな弟が認められるのは、誇らしいとは言えなかった。
貴志も頑張って、青龍隊で訓練を重ねた。
だが、どんなに努力を重ねても鴉に並ぶことができなかった。
だが、鴉はやはり可愛かった。ある日のことだった。
青龍隊のなかで、鴉のことをよく思っていない一派がいた。彼らは普段のうっぷんを晴らすために、夜間に鴉を襲った。青龍隊の訓練生は屋敷に住まうことが義務付けられていて、鴉たちも他の訓練生と同じく雑魚寝をしていた。そんななかで鴉は襲われたのだ。暗闇に対応しきれず、鴉は首を絞められた。
それをみた、兄の貴志は怒り狂った。
俺の弟に何をするのか、と叫び、わめき、鴉に手を出した訓練生たちを叩きのめした。拳で人を殴るのは、ほとんど初めての経験であった。暴漢に襲われた時でさえ、まともに人は殴らなかった。けれども、そのときになって初めて鴉は殺意を持って相手を殴ったのだ。
硬い拳の向こう側で、骨と肉がひしゃげる感覚。
その感覚に、貴志は酔った。
気が付けば、貴志を止めようとした他の訓練生までもが地面に倒れていた。事情が事情だけに貴志が罪に問われることもなく、処罰も不問となったが他者には恨まれることになった。特に貴志を止めようとして、無意味に殴られた輩にはなおさらに。
だが、そのなかで一人だけ鴉は貴志に感謝していた。
「兄さまはやっぱりすごい」
鴉だけは、そう語った。
「私ができなかったことを簡単にできる」
違う、と貴志は思った。
鴉は、やらなかっただけである。
他の訓練生と鴉では、実力が違いすぎる。下手をすれば殺してしまうから、鴉は何もしないことを選択していたのだろう。きっと貴志が暴漢に襲われて助けた時から、周囲と自分の実力の差を鴉は感じていたのだろう。
だが、貴志は違う。
貴志は殴り、痛めつける道を選択した。それだけで、自分の器の小ささを感じてしまう。
だが、鴉は貴志が身をていして自分を守ってくれたと思っているようだった。それは間違ってはいない。だが、正解でもない。
あの時の貴志は、人を殴るという自分の快楽のためにも訓練生を殴っていたような気がした。
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